涙のあとは 第5章 my brother |
2000年10月 しいな 作 |
ファミレスを出て近くでタクシーを拾った。 心臓の脈を打つ音が激しい。 思わず出てきてしまったけど・・失敗したな、もっと話をしたかったな。 俺は彼女の顔を思い出す。 弟といるときの彼女の表情は明るくてあの時の泣き顔とは別人だった。 そうか・・恋人と別れたんだ。だから、泣いてたんだな・・。 ふと、携帯が鳴る。表示をみる。 「はい・・。うんタクシーの中」 「あの子帰った。でさ、いいもん送るからあとでキャメッセ見てみ。」 滝沢だった。ウキウキしてる。声弾んでるよ。 「あんだよ。気持ち悪いな。」 「で?ハンカチ貸したんだ。やさしいねー。」 明るい声で茶化してくる。 「うるさいよ。切るよ。」 「ああ、ごめんごめん、またTELするわ。あとさ・・まぁいいやキャメッセみろよ。」 「わかったから、じゃ、うん。」 俺はそう言って携帯を切る。 そのあと、ラジオの収録に出て本日の仕事は終わった。 帰ったのはもう12時をまわっていて、風呂に入って一息ついた。 そういえば・・見ろっていってたな・・。忘れてた。 携帯につないで、見てみる。画面に出てきたものを見て俺は赤面する。 彼女の画像が数枚、そして、名刺だった。こんなもんまでもらったんかい。 あいつってば俺と同じで人見知りじゃなかったか・・。 「蒔さんっていうんだ・・。」 少し彼女の事がわかって正直うれしい。滝沢や山P、斗真に感謝だな・・。 また、来てくれるかな。 俺はまた変な顔を撮って滝沢に送った。 「サンキュー」ってメッセージを添えて・・。
※
「蒔!!マキってば!」 大学のキャンパスを歩いていると後ろから聞き覚えのある声がする。 振り返ると親友の柊麻美だった 一見エゴイストのカリスマ店員である。 似合うからいいんだけどさ。 「おっはよー。なんか久しぶりー。生で会うのって。」 最近、顔見なかったもん。携帯かメールだったし。 「おう、久しぶり元気なようじゃの。ところで、噂で聞いたけど別れたって本当?」 横に並んで歩きだす。 「ああ、言ってなかったっけ。うん、そのつもりだけどさ。」 「相手が納得してないんでしょ?」 頷く。そうなんだ。あいつ、ほんとうに別れたくないみたい。 しょっちゅう電話よこすんだよね。 「だけど、もう、勝手にさせといてる。家にも来てるけど・・。幼なじみだしねー。」 「でも、いいかげんだよねー。あたしが知っているだけでも女は2,3人いるみたいだし別れて正解じゃない?それとも未練あるの?」 「ないよ。ないない。」 それだけはきっぱり言う。 もう、洋介のことはあそこで号泣したときからふっきれていた。 「ふーん。そーなんだぁ。なんか、落ち込んでいるかなと思ったけど・・。 案外元気なんだもんなー。誰か好きな人でも出来たの?」 そう聞かれて、ふと彼の顔が頭に浮かんでくる。 アーモンドのにっこりと微笑むやさしい笑顔が・・。 「ほー、君にしては立ち直りも早いと思ったけど・・いるんだぁ。」 「ちっ、違うのっ。気になるだけだもん。まだ好きかどうかなんてわかんないもん。」 慌てて麻美に訴える。 「わかったから、で?相手は?」 「ごめん・・。言えないんだ。迷惑掛けるかもしれないし・・。」 「ふーん。わかった。ま、成就したら教えてよ。」 彼女はあきらめて、ウインクする。 私達は自分たちの学部に歩いていった。 ―つづく―
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