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涙のあとは 第2章
my brother
2000年10月
しいな 作


「なぁ、珍しいよね。若い女の人って・・。」
山Pこと山下智久が生田斗真に声を掛ける。彼も頷く。
「それに、美人さんだし。かわいい人だねー。あの子のお母さん?なわけないか・・。」2人は笑い出す。
ふと、ドアが開いてJrの年長組が入ってくる。
それを見て先生は音を止める・・と同時に携帯の着メロが・・。
「おお、キンキだ・・。」
いっせいに彼女に視線が集中する。
慌てて、ドアを開けて出ていった。
「うひゃー。慌てた姿もかわいいなぁ。」
山Pは出ていった方角を見ていた。
「なになに?今日は若い女性が来てるね、誰かのおねーさん?」
タッキーこと滝沢秀明は2人に向かって声をかける。
「こんちわ、滝沢君。そーなんですよー。さっき新しい子の付き添いみたいで・・。」
「デニムで中にキャミだしなー。かわいいよね。」
「ああー、そんなこと言って・・彼女にいいつけますよ。」
斗真は秀明に小さい声で肘鉄を軽くしながらにやにやしつつ言った。
「いいじゃん、見るだけただだし。」
「ところで、翼くんは?」
山Pは秀明にストレッチをしながら聞いてくる。
「ああ、少し遅れるってさ。ドラマの撮り押してるって言ってた。」
すると、先生の「はじめるよー。」の声に山Pと斗真、ミドル達は集合していった。
秀明達はそれを真剣にみつめていた。


「ちょっと、それどーゆことよ。洋介!」
携帯に向かって、少し大きな声を出してしまう。
「悪い、ちょっと用事できてさ。遊べなくなった。」
洋介とは、幼なじみの春日洋介という。一応、私の彼なんだけど。
今日は夜に一緒にライブを見るんだったのに・・。
しかし、私はピンと来ていた。近くに女がいるな。
洋介とはつきあいが長いのでウソつくとすぐわかるんだよね。
幼なじみ歴20年及び恋人歴2年。
もう、何回目だろう。浮気ってやつ。もう、疲れてしまったなぁ。
「わかった。洋介、もうやめよう?」
私はそう切り出す。なんかもう面倒になってしまった。だって、バカみたいなんだもん。
こんなにオシャレして会おうと思ってたのに。
「えっ?蒔?なんだよ。やめるって?」
別れんのー?やったねー!!これで晴れて恋人だねー。
案の定女の声。
「ばかやろ、静かにしてろって・・」とかもろ声が聞こえている。
「終わりだね。決まり。明日から、あんたはただの幼なじみだから。じゃね!」
相手が喋る前に切る。そして、掛かってきても出ないように電源をきる。
あーあ、すっきりした。携帯の番号変えてやる。
ふと、視界が霞んでくる。
「ふぇ・・」
涙が溢れてくる。すっきりしたのに・・。
笑ってたいのに、私は鞄からハンカチを取り出し、目を押さえる。
壁にもたれて何分経ったのか、ずっと泣いていた。

「お疲れさまでーす。遅れてすみません。」
2人の男性が係員に頭を下げ、事務所の関係者に挨拶をしていた。
20代の眼鏡をかけた若い背広を来た男性と、10代後半くらいの少年だった。
私はこんな時でもミーハーで、「翼くんだ・・。」とつぶやいた。
すると、ふと・・翼くんこと、Jrの今井翼君と目が合ってしまった。
  きゃーっこんな涙でぐちゃぐちゃな顔見られたくないよー。
背をむけて、マスカラとアイシャドウ、ファンデで汚れてしまった、ハンカチで 涙をふく。
でも、枯れずにまだまだ止めどなく溢れてくる。
「はい・・。」
低い男の子の声。ハンカチが差し出される。
顔を上げると・・。翼くん。
「あのっ、いいんですっ。持ってるから・・。」
「1枚じゃ、足りないんじゃないかな?いいから使いなよ。じゃね。」
そう言って、ハンカチを貸してくれた。
彼は、着替えるために、巧も入って行った部屋に急いで走って行った。
「いいのかな・・?」
使っても・・。私はトイレに駆け込み翼くんのくれたハンカチで涙を拭いた。
何故か、自然と涙は止まって、お化粧も直した。ただ目は腫れぼったい。
「洗って返さなきゃな・。」
そのあと私はJrのレッスン場に戻って見学した。
ちょうど翼くんが合流してメインのJr達のソロの振り付けなどを熱心にやっていた。
巧も混ざって全員で踊った時は圧巻だった。
私は洋介とのことはすっかり忘れしばしの間コンサート気分を堪能した。

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