[back]

心を開いて・・・第5章
Your dream I believe 
2000年10月
海亜 作


滝沢くんは帽子を脱いで挨拶した。
『初めまして。滝沢と言います。今日は突然すみません。』
『あっ、いっ、いいのよ。全然。』
佐喜子さんは少し動揺しているように見えた。
手にしていたタオルを床に落としていたから。
『色白いねぇ。肌も艶々してる。羨ましいわぁ。。。』
佐喜子さんは滝沢くんを魅入ってる。
滝沢くんは恥かしそう。目を合わせようとしない。
それに耐える事が出来なかったのか、こう言った。
『あの・・・トイレ借りていいっすか?』

その隙に私は佐喜子さんに言った。
『滝沢くんがこの店に来た事、内緒にして欲しいんです。』
『えっ?どうして?』
『滝沢くんが、そうして欲しいと。
私にも、その理由が分からないんです。とにかくお願いします。』
『うん。分かった。絶対に誰にも言わないよ。安心して。』
『ありがとうございます。』
『あっ、私これから、ちょっと出掛けるから自由に使っていいわよ』
そう言うと佐喜子さんは出て行った。とても残念そう。

代わりに滝沢くんが用を済ませてトイレから出て来た。
『あれ?あの人は?』
『用事が有るらしくって。出掛けちゃった。』
『そっか。ちゃんとお礼を言えなかったなぁ。』
『また来ればいいよ。』
『そうだね。』

鏡の前でブラッシングをする。初めて触れる滝沢くんの髪。柔らかい。
『あっ、この香り・・・』
滝沢くんが言った。
『何?なんか匂う?』
『べっ、別に何でもない。』
ちょっと焦ってる感じがした。
もしかして・・・香水に気付いたのかな?

そしてシャンプーをし、いよいよカットする段階になった。
久しぶりにハサミを持った。懐かしい感触に鳥肌が立つ。
『じゃぁ、始めるね。』
『うん。』

私は滝沢くんに言われた通り髪の毛をカットしていった。
床にバサバサ零れ落ちるのを見て少し不安になってしまった。
でも滝沢くんは私の心配をよそに言う。
『もっと切ってよ。』
『えっ?まだ切るの?短か過ぎじゃ・・・』
『大丈夫。』
その表情は凛としていた。何か内に秘めているのを感じた。

切り終えて、もう一度シャンプーして乾かした。そして仕上げをして完了。
やっぱり短い。そう思ったけど滝沢くんは満足している様子。
『うん!イイ感じ。ありがとう』
『・・うっ、うん』
『あのさぁ。この事は誰にも言わないでくれる?』
『へっ?』
また、この素っ頓狂な返事をしてしまった。
『それ、好きだねぇ〜。』
『だってビックリする様な事言うんだもん。でも、何で内緒なの?』
『色々聞かれたら説明するの面倒じゃん。』
『分かった。』
その時はそう返事したけど、よくよく考えると変だった。
私が切った事を内緒にするのは何故?
私に頼んだのは何故?
内緒にするのは面倒だから?それだけの理由なの?


いつもの癖が始まり、また寝不足になってしまった。
そして、最後に交わした約束が頭から離れない。

お礼に今度、夕食をご馳走する

私は口止め料?なんて言いながらも期待していた。
きっと果たせないだろうけど・・・。




―つづく―




[top]