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心を開いて・・・第6章
Your dream I believe 
2000年10月
海亜 作


翌日、短髪にした滝沢くんが現れた。
佳子さんは・・・絶句。
周りに居たスタッフも・・・唖然。

『えっ?何でみんな、そんな驚いた顔してんの?』
滝沢くんが苦笑しながら尋ねた。
『だってぇ〜。短いんだもん。ちょっと・・・変。』
佳子さんが堂々と言った。
『あっ、ひっでぇー。それじゃ、まるで髪型が好きだったみたいじゃん。』
『ちっ違うわよ。ただ、私は・・・』
いつも言い包めてる佳子さんが・・・体裁逆転してる。
『じゃ〜いいじゃん。ねっ。』
『そっそうね。髪短くっても、君はカッコイイわよ。
でっ、それは何処で切ったの?』
『内緒ー!』
滝沢くんはチラッと私を見てニヤッと微笑んだ。
2人だけの秘密・・・
そう言ってるかのように思えた。
『酷いわっ。いつからそんな子になったの?ママ悲しい〜』
イジケてる佳子さんは・・・やっぱり可愛い。

あれから、約束をした日から、もう2ヶ月。
滝沢くんの忙しい日々が、また始まった。
秋のコンサートの為、レッスンを夜遅くまでやっている。
今回は先輩のコンサートとも重なって下のジュニアの子達は バックとして活動している。
だから、合同練習の時間が少ない。
滝沢くんは・・・焦っているように感じた。

そんな様子を見ていて心が苦しい。
助けてあげたくても、私には何にも出来ない。無力さを感じる。
そうして大阪ドームの公演日を明日に迎えていた。

『いよいよ、明日だね。頑張ってね。』
私は笑顔で言った。
この一週間、声を掛けるのが出来ない程の空気だったので緊張した。
『あぁ。』
返事が重い。
『見たかったなぁ。』
私は寂しそうにポツリ言った。
『仕事なんでしょ?』
冷たい視線。
『・・・うん。。』
泣きそうな自分を支えながら言った。

滝沢くんは楽屋の時計を見た。午後11:00。
『これから時間有る?』
『・・うん。』
『ちょっと行きたいとこが有るんだ・・・』
こんな時間に?何処だろう。

電車を乗り継いで30分。滝沢くんの行きたい場所に着いた。
そこは、東京と思えない程、静かな空間が漂っていた。
『俺の・・・生まれた町』
そうポツリ言った。

『もうちょっとだから。』
そう言うと今度は坂道を登り始めた。歩き始めて10分。

突然、宝石箱みたいな景色が目に飛び込んで来た。
それは煌(きら)びやかではなく、鮮やかでもなく・・・
そう、ささやかな光だった。




―つづく―




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