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Kissの奇蹟 第6章
a miracle kiss
2003年7月
しいな 作


 タッキー&翼のコンサートは、横浜で盛況のうちに終了した。
私は、姉の付き添いで行ったんだけど・・最後のオーラスは感動した。
滝沢くんも普段の彼とは違って・・スターのオーラをこれでもかってくらい放って いた。
改めて滝沢くんは、スゴイんだなぁとしみじみ思った。
アンコールのepilogeは・・義姉は号泣だった
和ちゃんは、両親に預けて来た。
泣かれて大変だった。
誤魔化しても・・分かるみたいで・・帰ってきてからも機嫌がなかなか治らなかっ た。
コンサートの最中はさすがに滝沢くんと目が合うことも無くて終わった後、メールで 「すごく良かったよ。」と感想を送った。
彼からは、普通に「サンキュー。」って返事が来た。
7月からドラマやるから見てね。ってそれだけだった。
それだけ・・何か寂しい。
いつもと普通のやりとりなのに。
コンサートでお客さんを前に翼くんと一緒に歌う姿は神々しくて いつもの照れ屋で大人っぽい彼とは違って遠く感じてしまった。
私と滝沢くんは、離れた世界の人なんだと改めて思ってしまった。
というか・・忘れてしまっていたのかもしれない。

それから、私は引っ越しやらで兄夫婦の準備に忙しくて滝沢くんともあえずじまい。
彼は、すでにドラマの撮影に入っていて様子が分かるのは雑誌や公式HPだった。
だから、引っ越しの事も兄夫婦がアメリカに行くことになったのも まだ言ってなかった。
兄がアメリカ出発する前に引っ越しを済ませた。
手伝いに来てくれたまりやは、キョロキョロと辺りを見回す。
「へぇ〜・・良いところね。今度は・・呼べるじゃん!」
と雑巾で床を拭きながら私をうりうりと肘でつつく。
呼べるとは・・滝沢くんの事だろう。
「・・実は、まだ言ってないんだ・・。」
「へ?引っ越しの事?なんでよ。」
私は、ぽつぽつと私が滝沢くんと親しくなってていいのか・・なんて事を 話した。
「今更だなぁ・・。滝沢くんが良いってんだから良いんじゃないのよ。 もう・・君たちまどろっこしいよ〜早くくっついちゃいなよ。」
と床を拭きながらイライラしてる。
「ごめんね。色々考えすぎるのかな?」
私は、テーブルに茶碗などを出してる。
「まぁ・・さくらの場合はよけいにね。じゃあ・・私がメールしといてあげる。 義姉さんと和ちゃんの出発っていつだっけ?」
「え?いいよ。それくらい私がするよ。」
「まぁまぁ・・私も伝えたい事があるからさ。で?いつ?」
真剣に強引に聞いてくる。
私は、「じゃあ・・お願いします。」と言って日時を教えた。
それから、大学、引っ越しの後片づけ・・義姉と和ちゃんの準備で忙しく過ごした。
滝沢くんのドラマの内容もTVで流れるようになって・・益々連絡が 取りづらくなっていった。




 某日・・外は雨。
時間は、9時。
せっかくの2人の新しい生活の日なのになぁと外を眺めている私。
軽く朝食をすませて身支度を終える。
これから、2人の宿泊している空港近くのホテルに向かうために部屋を出る。
今日は、大学は休講。
すると、携帯が鳴る。
出ると、まりやだった。
「おはよう。どうしたの?早いね。」
と言うとすごく元気な明るい声が聞こえた。
「うん!これからだよね?滝沢くんには連絡しといたから。見送りに行くって!」
「本当?2人とも喜ぶだろうなぁ。でも・・良く時間あったよね?」
ドラマの撮影で朝方までとか多いみたいなんだよね。
「なんかぁ・・雨だから、ロケは中止になるかもって言ってた。」
ん?ロケは中止?
「ねぇ・・それっていつ言ったの?」
「うふっ(はあと)夜中にメールしたら・・いま帰って来てるってメールで 返事来たから電話したの。」
私は、真っ青になる。
き・・急すぎるじゃんと突っ込みを入れたくなった。
「中止になったら昼から仕事だから間に合うかもって言ってから大丈夫じゃない?」
確かにどしゃぶりだからなぁ・・夏のドラマだから中止なのかも。
「でも、急だから無理かもね〜・・ ありがと。」
「滝沢くん・・きっと行くよ。じゃあね!」
と切られる。

何だろう・・?変だよね?
私は傘を持って部屋を出てエレベーターに乗って下まで降りる。
マンションの敷地から出ると雨が降っているので傘を開く。
ふと・・見たことがある4駆の車がウインカーを付けて止まる。
私は、久しぶりに会えて嬉しくなる。
彼は、傘もささずに車から降りて来た。
「滝沢くん・・ごめんね・・え?」
真剣な表情で歩いてきて・・そのまま抱きしめられる。
ふわっと甘い香りが私の鼻をくすぐる。
あのときの匂い・・滝沢くんの香水だったんだ・・。
夢の中で私を引き留めてくれたのは・・彼なんだ。
そんなことを思いだしながら、 私は突然の事で傘を落としてしまう。
少し小降りになったとはいえ私たちは雨に打たれる。
「どうしたの?濡れるよ・・滝沢くん?」
私は伺うように聞いた。
辛そうで切ない表情だった。
髪も濡れてしまって滴が額から流れている。
キラキラと宝石のように光って魅入ってしまった。
「何で言ってくれなかったの?」
えっ?何?私が何の事やらさっぱりと答えられないでいると。
「オレに黙って何でアメリカに行くんだよっ。ひで〜よっ。」
必死の形相で訴えてくる。
「待ってっ・・何の事?」
「アメリカに・・和ちゃん達と一緒に行くんだろ?」
「えっ・・誰がそんなことを?」
って聞いたけど滝沢くんは落ち着きを取り戻さずにそのまま私に・・
この間の柔らかいキスじゃなくて強引に貪るような激しいく触れてくる。
彼の熱い情熱が私の全身に入り込んでくる。
雨に打たれているのに体は熱っぽく上気していた。

「行くなよっ・・オレと一緒にいて欲しいんだ。」
唇を離した後・・彼は私の肩を掴んでそう捲し立てる。
はぁ・・まりやだなぁ・・何でこんなこと〜。
「ちっ・・違うのっ。滝沢くん・・まりやに騙されたんだよ。」
すると・・きょとん!?と黒目が大きくなる。
「えっ?何?」
「私は、日本に残るの。和ちゃん達とは一緒に行かないの。」
「嘘おぉっ!あっちで留学するんじゃないのっ?」
私が頷くとそのまましゃがみ込む。
さらに女優さんにも負けないくらい白い肌がみるみる赤くなりピンクに染まる。
「お・・オレ・・ばかじゃん。」
恥ずかしそうに俯く滝沢くん。
私は、可愛いと不謹慎にも思ってしまった。
「バカじゃないよ・・。ごめんね。私が早く言ってれば・・。」
そう・・もっと早く素直になってたら。
こんなに私の事好きでいてくれてるのに・・。

滝沢くんは、立ち上がって私を見ると目を反らして困ったような顔をする。
「ここ・・濡れちゃうね。中入ろう?」
私は、落とした傘を拾って屋根のあるマンションに滝沢くんを引っ張っていく。
「・・ってもうずぶぬれだけどね。へへ・・。」
前髪を気にしながらそう笑って言う。
「あのね・・ちょっと待っててくれる?」
「ん?何?」
滝沢くんに傘を渡して部屋に戻るべくエレベーターを上る。
私は、ある決心をしてそれを部屋に取りに行く。
それを持って再び滝沢くんの元に走る。
滝沢くんは壁にもたれて待っていた。
「忘れもの?」
私の顔を見るとそう不思議そうに見つめる。
私は、彼の手を取ってそれを手のひらに置いた。

「え・・?これって?」
「私のキモチ・・受け取ってくれる?」
それは、部屋の合い鍵。
ちょっと・・大胆・・かな?
マスター用のを滝沢くんに渡す。
「一人暮らしだから・・不安なんだけど。いつでも来て・・」
「えっ・・?寂しいから?じゃあ・・オレじゃなくてもいいじゃん。」
と顔を覗き込むようにいたずらっぽく言われる。
ああ・・いけない・・ちゃんと言わなきゃ・・。
「滝沢くんじゃないとダメ。」
「ほんと?」
「私・・滝沢くんの事が好き・・です・・ダメかな?」
そう振り絞るように言う。
全身硬直・・心臓バクバク破裂しそう。
「何・・言ってんの。オレも好きって言ったでしょ。」
そのまま・・抱きしめられる。
滝沢くんの甘い香りに包まれながら夢のことを思い出す。
そうかぁ・・夢であいつが言ってたのは滝沢くんの事なんだね・・。
ごめんね・・忘れるね。
心の片隅にちょっとだけ想い出としていてください。
あいつに心の中で静かにお別れを言った。



つづく


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