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瞳で殺せ!!第8章
when I sit by him
2001年9月
しいな 作


 「おっ・・起きてたの?」
私は、慌ててどもりつつそう聞いた。彼は・・頷く。
全身の毛穴からじんわり汗が噴き出してくる。
心臓もバクバクと脈打つ。
「いっ・・いつから?」
続けて聞くと・・にっこりと微笑む。
「部屋に入って来るときから気づいてたよ。」
うっ・・それじゃぁ・・ばればれってこと?
ひっ・・ひどい狸寝入りしてたのねっ。
私は、恥ずかしくて・・まともに顔を見れなくて寝てた彼に背をむける。
目の前には、ヘアメイク用の鏡がある。
そこには、じっ・・と背を向ける私を見つめる滝沢君が映ってる。
その視線を受けることが出来なくて・・下を向いてしまった。

「答えになってないんだけど?ど〜〜なのよ。」
後ろから・・催促するように・・聞かれた。
彼の表情を伺うと・・とっても優しい笑みを浮かべてる。
何だか・・胸がちくちくと痛んだ。
「あのね・・私・・滝沢くんの事が好きなの・・。」
ぽつぽつと私は・・話していく。
「滝沢くんは・・人気絶頂のアイドルだから・・好きになっちゃダメって思ってた。
あきらめなきゃって、ずっと考えていたから・・ でも・・気持ちが抑えられなくて、
ついしてしまったの。だから・・ごめんなさい・・。」
言葉を選んで言ったつもりだけど・・。好きなことだけでも伝えられた。
良かった。

「なんで・・好きなのを諦めなきゃなんないの?オレの気持ちはど〜なるの?
すっげぇ・・嬉しいのに・・。」
そう・・後ろから聞こえる。低いハスキーボイスが・・掠れてる。
ふわっと彼のつけている香水の香りがした。
背中から包み込むように抱きしめられる。
私は顔を上げて鏡を見る。
「滝沢くん・・?」
「オレも・・みはるさんの事が好きなんだよ。せっかく・・両思いなのに 諦める必要なんてないじゃん。」
耳元で囁かれる。息が頬に掛かる。
私は・・信じられなくてどうしていいのか戸惑ってる。
だって・・こんなこと・・想像してなかったもん。絶対ありえないって思ってた。
心臓は、ドキドキしてるし、彼と接している部分はすごく熱くてどうしようも なくなってる。

「だから・・その・・ロンドンには行かないで欲しいんだ。」
「ああ・・翼くんに聞いたんだね・・それはね・・。」
やめたんだよ・・って言おうとしたら・・強く強く抱きしめられる。
「た・・滝沢くん?・・痛いんだけど・・。」
私がそう訴えると彼は、「ごめん!」と言って体から離れた。
「オレ・・情けないこと言ってるよね。みはるさん・・最近・・オレのこと避けてたよね。
それですっげぇへこんでたんだ。何で・・オレを見てくれないんだろうって・・。
ロンドン行くって聞いたとき・・どうしようって思った。」
滝沢くんは・・私の瞳を見据えて逸らさずに続ける。
「仕事で行くなら・・いいんだ・・でも、あの人と行くのだけは・・嫌なんだ。」
あの人って・・佐見さんのこと?会ったことあるっけ?
その後、階段での話を聞いてしまったと私に告げる。
「あのね・・私・・ロンドン行かないよ。」
じっと見つめられて・・高鳴る胸の鼓動を押さえながら・・そう言った。
「えっ・・本気?」
背後にいた彼は、私の隣に移動してくる。
「うん・・だって・・今の仕事も満足にちゃんと出来てないから。
ロンドンなんて・・まだまだ・・無理だと思ったから・・。ホントは・・悩んだんだぁ。
滝沢くんの事諦めるために・・トオルさんと一緒に行こうかな〜って。」
私は、鏡に映っている滝沢くんを見つめる。
「それって・・だめじゃん。」
「うん、だから止めました。そんな気持ちで行ってもね。きっとダメだよね。」
しばしの・・沈黙・・。

時計を見ると・・もう・・こんな時間か。休憩時間も終わりに近づいている。
「じゃぁ・・オレの側にいてくれるんだね・・。」
その声に驚いて・・鏡に視線を戻す。
にっこりと私を見つめる。両思いだと確信しても・・まだ・まともに見れない。
また・・背けてしまう。(条件反射!)
「ちょっと・・なんでオレを見ないの?」
彼は、むくれて聞いてくる。
「だって・・死んじゃうから・・。」
私は・・ぼそっとつぶやく。ああ・・恥ずかしい。
「はい?死ぬって?なんで?」
「いいよぉ・・後でね・・。さあて仕事しよっと。」
すると・・部屋のドアが開いてスタッフが入ってきた。
おお・・いいタイミングだな〜。滝沢くんを見る。
『 今日・・待ってるから・・。説明してくんなきゃ・・納得出来ねぇ。』
・・と私にこっそりと笑いながら囁いた。
その後・・私は・・彼にメイクと髪をセットした。
その間も・・ちゃんと見れず・・でも・・これでも少しは良くなったと思うけど。
撮影は順調に進んで数時間後に終わった。





「お先に失礼します〜。」
後かたづけを済ませ、他のスタッフに挨拶してスタジオを後にする。
私は、美容室に戻ることもせず、そのまま帰宅するつもりだった。
入り口から出ると・・クラクションが鳴る。
振り返ると・・車が止まってる。中から見覚えのある顔が見える。
滝沢くんだった。手招きしてる。
助手席の窓が開いた。
「どうしたの?・・仕事は?」
「今日は、終わり。最近は・・暇なんだよね〜。はい・・乗って。」
え・・?私は・・回りを伺う・・。いいのかな?
「早く早く・・かえって変に思われるでしょ。」
そうかな・・まぁ・・いっか・・。私はドキドキしながら車に乗り込む。

私がシートベルトをすると彼は車を発進させる。
「どこいくの?」
「どこがいい?みはるさんとゆっくり出来るところなら、オレはどこでもいいよ。」
どこって・・言われてもなぁ・・。
こんな時間なら・・どっかご飯でも食べて〜って感じだけど。
そういえば・・今日は・・うちでご飯と思ってお金そんなに持って来てないんだった。
「いきなりで・・なんだけど。うちでご飯でも食べる?」
何気なくそう言うと滝沢くんは「嘘!いいの?やった!」と喜んでくれた。
「ちらかってるし・・何にもないけど・・それでも良いなら。」
いきなり・・家に呼ぶなんて大胆かもなぁ。(変だと思われないかな?)
彼は、「もちろん!OKっすよ!」と車を飛ばす・・初心者なんだから安全運転して!
そして近くのスーパーで買い物をして家に向かう。
今日のご飯は・・暑いので冷や麦です。(そーめんは家にないんだぁ・・。)
ゆでた麺の上に大根下ろしとなめ茸と納豆(とろろでもOK)ねぎ、刻みのりを トッピング。
めんつゆをかけて頂く。料理じゃないよね。超簡単・・。
「んっまいっ!最近納豆もマイブームなんだよね。」
と豪快にたいらげる彼。自分一人で食べるより誰かと一緒っていいよね。
私は、がつがつと食べるのをじっと見てる。作りがいがあるよね。
ひとしきり・・話をしたりTVを見たり楽しい時間が過ぎた。

もう、11時を回ってる。
「滝沢くん、明日も仕事でしょ?もうそろそろ・・。」
帰った方が良くない?って言おうとしたら・・彼は、じっと私を見つめてる。
真剣に・・。私は・・また・・瞳をそらしてしまう。
「明日は、仕事だけど昼から。ほら、まただよ。オレのことちゃんと見てよ。」
彼は、立ち上がって私の両肩を掴んだ。
「昼間の・・死んじゃうって・・何?気になってしょうがないんだけど。」
「私・・滝沢くんの瞳に弱いんだ・・。」
滝沢くんは・・「え?」って感じで私を見てる。
「じっ・・と見つめられたりすると・・呼吸困難になりそうなの。」
今も・・その状態・・心臓が・・動悸が・・大変なことになる。
「ドキドキして・・体中が熱くなるの。だから、仕事中だと手元とか狂いそうだから ちゃんと・・見れなかったの。
嫌な思いさせてたんだね・・ごめんね。」
すると・・彼のため息が聞こえる。
「そんなのオレだって同じだよ。みはるさんに見つめられるとドキドキする。」
私に言い聞かすように優しくそう言った。
「だから、避けられてる時は・・すごい辛かった・・。オレは・・みはるさんに 見て欲しいんだ。
ほら・・心臓バクバクでしょ。」
私の・・右手を掴んで・・滝沢くんは自分の左胸に当てる。
とくん、とくん¢≠「スピードで彼の心臓が脈打っているのがわかる。
私は・・頷く。

「みはるさんは?」
彼は、そっと前から私を抱きしめてくる。
そして・・耳元で・・そっと囁く。
「確かめても・・いいかな。」
甘くて優しくて・・私はなんて言っていいものやら・・言葉に詰まる。
私の返事を聞く前に・・彼は右手を・・私の左胸に置いた。
「同じだね。みはるさん。」
私は・・目の前の美しい青年に見つめられて・・ぼーっとしてる。
「ところでさ〜。オレ・・今日・・帰りたくないな〜。」
また、ギュッと抱きしめられる。
私は・・何も出来ず・・まな板の鯉状態だった。
「・・でっ・・でもぉ・・。」
と言うのだけが精一杯だった。
「決まり〜!朝まで一緒だね。」
勝手に決めないでと・・喉まで出かかったけど、呑み込んだ。
だって・・それを望んでいる自分がいるから・・。
おまけに・・抱きしめられて離れたあとの極上の笑顔で・・何も言えなかった。
そして・・私たちは・・朝まで一緒に過ごしたのだった。





―つづく―




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