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瞳で殺せ!!第4章
when I sit by him
2001年9月
しいな 作


撮影が終わって・・休憩に入ることが出来たのは、お昼をかなり回った後だった。
滝沢くんは・・最初、表情が堅くてらしくなかったけど・・次第にカメラマンの要望に応えていった。
終わったあと、翼くんの控え室に入っていったのを見た。
私は、休憩室で遅い食事を取ることにした。
滝沢くん担当チーム数人と仕出しのお弁当をパクついてる。
「みはるちゃん!」
休憩室の入り口から私を呼ぶ声が聞こえた。
何だろ・・・と振り向くと見覚えのある顔が見えた。
「あれ?佐見くんじゃない・・みはるちゃん。」
隣でスタッフの一人の女の人が私に声を掛けた。
「ほんとだ〜いつ帰って来たの?」
向かいに座ってる子も出口の方に目を向けてる。
「知らないよ・・。私だって・・行ってくる。」
2人は、「うん、行ってらっしゃい・・。」と私を気遣うように見送った。

お客さんは・・佐見トオル・・ヘアメイクアーティストでロンドンを拠点に、全世界をまたにかけて活躍中。
そして・・私の元恋人。
身長は・・かなり高くて見た目はモデルでも通るかもしれない。
サングラスに無精ひげをはやしている。格好は派手なシャツにジーパンだ。
「よぉ!元気だったか?ハニー!」
とニカッと片手を挙げて笑ってる。
「何年前の話ですか?佐見さん。」
私と彼は・・並んで歩きだした。
「そんな〜他人行儀な〜。みはるちゃん、相変わらず可愛いねぇ。」
ほんとに・・そっちこそ相変わらずじゃないよ。
2年もほっておいて・・何のつもりじゃ!と言ってやりたいのを押さえてギロッとにらむ。
私達は、すぐ側の階段をゆっくり上り始める。
「突然・・どうしたんですか?トオルさん。」
「もちろん、みはるの顔を見るため。ホントに綺麗になったなぁ。」
この人・・本気で言ってるのかな?私は疑いの目で隣で飄々としている男を見る。
「そんな話しないで下さい。もう・・昔の話なんだから。で?何?」
トオルさんから・・聞いた言葉は・・びっくりする内容だった。
ロンドンで私に仕事を手伝えと言った。
オレと一緒に・・仕事をしないかと・・。
「突然・・そんなこと言われても困るんですけど・・。」
私は・・突然のことで・・戸惑っている。
「何で?良い話だろ?」
階段の踊り場で私達は立ち話をしている。
彼は、階段に座りだした。
「だって・・突然でしょ?ロンドンに一緒に来ないかって・・。」
別れるときもあっという間だったけど・・会いに来るのも・・急すぎるよ。
何か・・格好も・・そのまんま来たって感じで・・ラフだし。
思い立ったら吉日って・・この人のためにあるんじゃないかな。
「あっちでさ、オレのアシスタントして欲しいんだよね。」
・・と平然と宣う。
「トオルさんなら、もっといい人いるじゃない。
向こうに私なんかより数段腕のいいアシスタント沢山いるでしょ?何が不満なの?」
私は、壁に寄りかかる。
「不満かぁ・・敢えて言うなら・・お前が側にいないことかな・・。」
その言葉・・2年前に聞きたかったなぁ・・。
「もう・・冗談ばっかりなんだもん。どれが本当か分かんない。」
私は・・呆れつつ・・思わず笑ってしまう。
「冗談じゃないって!オレたちより戻さない?」
何を言うかと思えば・・。

その時ふと・・下から声が聞こえた。
「タッキー何やってるの。次の仕事場行くよ。」
聞き覚えのある・・滝沢くんのマネージャーさんの声。
私は、何段か降りていくと・・慌てて階段を下りていく滝沢くんの後ろ姿が見えた。
「滝沢くん?」
どうしたんだろ?何で・・下の階段にいたの?
「何だ?誰かいたんかい?って滝沢ってあのきれいな子だろ。」
私は、うなずく。ってロンドンなのになんで知ってるんだろう。
不思議そうに見ていると。
「さっきまで撮影みてたのよ。あなたの仕事ぶりを・・。」
この男は・・。私は・・じっと睨む。
「とにかく・・前向きに考えとけよ。一週間は、こっちにいるから。
それとこれ連絡先だから・・じゃ!」
勝手にそう捲し立てて去っていった。
紙には、超一流ホテルで最上階の部屋のナンバーが書いてあった。

休憩室に戻るとあらかた食べ終わった後らしく・・みんな片づけしていた。
「どうだった?」「何の話だったの?」興味津々に聞かれた。
私は、簡単に簡潔に説明した。すると2人は、「すごいね〜。」と喜んでる。
「いや・・まだ、行くと決めたわけでは・・。」
私がそう言うと、2人は、顔を見合わせる。
「どうしたの?なんか迷ってるの?」
私の返事が生返事なのでそう聞いてくる。
迷ってるのかなぁ・・。理由は・・何だろ。
すると・・滝沢くんの顔が浮かぶ。彼に会えなくなるから?
そうかもしれない・・。
手の届かない存在だけど彼の姿を見れないのは辛い。
「さっき・・言われたばかりだもんねえ。でも、良い話だね。」
「う・・うん。」
まぁ・・トオルさんは・・仕事に関しては・・まともな人だから本気だと思うけど。
好きな人の側にいたい気持ちの方が今は強くて・・迷ってる。
さっき・・滝沢くん。どうしたんだろ。次の仕事に行ったみたいね。
私・・一人遅くなるわけには行かないので・・急いで食べて次の持ち場へと向かった。
今は、翼くんの撮影をしている。
翼くんは、滝沢くんと同じくジャニーズJr.のリーダー格。
小顔でスタイルもいい。模様の入った黒い地のTシャツに紺のパンツにスニーカー。
とても良く似合っている。
「お疲れさま〜。」
翼くんの撮影が終わった。
私は、数人のJr.達のメイクを直している。
「みはるさん、久しぶりです。」
クリクリとしたアーモンド形の瞳がきれい。
にこにこと私にお辞儀する。
「ご苦労様、翼くん。」
すると、じっと私を見つめる彼。
翼くんも・・瞳に力があるのよね。人気があるのもうなずける。
「あの・・さっき小耳に挟んだんだけど・・ロンドンに行くって本当?」
えっ?何でしってるの?
「う〜ん。悪い話じゃないから・・悩んでるんだけど。」
私は、Jr.達に「しっかりね。」と送り出した。
「そうなんだ・・。滝沢とは・・話した?会いに行ったと思ったけど。」
え?じゃぁ・・さっき・・私に会いに来てくれたの?
「ううん・・会えなかったんだけど・・。」
そう言うと・・翼くんが「ふうん・・。」と私を見つめる・・何?
すると、翼くんは、いたずらっぽい瞳でにまっ≠ニ笑った。
「滝沢と今日・・会うんだよね。オレから言っておくね。」
そう元気良く言った後・・控え室に戻っていった。
何だろう・・あの・・何か企みがあるような微笑みは・・。
「みはるちゃ〜ん!」
呼ばれて、慌てて返事をしてその場に走って向かう私だった。





ピンポーン♪ インターホンが鳴る。
オレは、玄関に行ってドアの向こうの人物を確認すると、鍵をはずす。
ノブを回して開けると俺んちを別荘と堂々と言う男が立っていた。
「おっす!あれ?またまた元気ないじゃん。」
・・と言うと買い物袋をオレに渡す。
覗くと・・お菓子とつまみ・・が盛りだくさん。
「ああ・・サンキュー。」
翼こと今井翼は勝手知ったるってやつで・・。上着を脱いでソファに 座ってTVの電源を入れた。
「あのさ〜。滝沢・・聞いた?」
オレは、冷蔵庫から飲み物を出してコップをテーブルに運んだ。
「なに?何のこと?」
「みはるさんのロンドン行きの話。」
翼は、飲み物をコップに注ぎ始める。
「えっ?誰から聞いた?みはるさん?」
オレは身を乗り出して聞いた。
「聞いたのは、違う人。ってことは?知ってたの?」
オレは・・階段の下でみはるさんと相手の男の立ち話を聞いてしまったことを 翼に話した。
「じゃぁ・・その人だ・・佐見トオルさん。この間も・・ファッション誌で見たな。」
ってことは・・あの人すごい人なんだ・・。
「もう・・ひとつ・・あるんだけどね。元・・恋人らしいよ。」
オレは・・持ってたコップをテーブルに乱暴に置く。
当然・・耳に付く音が響く。
「だから・・あんなに馴れ馴れしかったんだな・・。」
「なぁ・・ぼやぼやしてたらみはるさん・・取られちゃうかもよ。」
翼は・・自分で買ってきておいた雑誌の山を漁り始めた。
「ああ?だって・・元だろ、元!」
オレは、半ばやけになってそう翼に眼を飛ばす。
「確かに・・元だけど・・これはね・・内緒で教えてもらったんだよね。」
ああ・・あった!≠ニ翼は雑誌を引っぱり出して広げだした。
「なっ・・なにっ・・翼くん?」
そして、男性ファンション誌の人物紹介のページを指さした。
「なんでも・・嫌いで別れたわけじゃないみたいよ。仕方なく諦めたんだってさ。
みはるさん。彼女も嫌がってなかったんだろ?話してるとき。」
翼が指さした所には・・渋くスーツを着こなした。モデルでも通る男が映っていた。
「そうなんだよな・・。」
オレとは・・普通に話をするけど・・目を合わせてくれなかった。
逆に・・辛そうに・・眉をひそめてる。
なのに・・あの男とは笑いながら話してる。
きっと、二人の視線は・・合っていたんだろうな・・。

「いつになく・・弱気だな。らしくないぞ。」
翼は、買ってきたお菓子を開けてる・・あ・・とんがりコーン。
オレもとんがりコーンをパクつく。指に入れたりして・・。
「だからぁ・・みはるさんは、大丈夫だって・・オレの目に狂いはない!!」
と大きな目を更に指で広げる。変な顔させると・・抜群だよな・・。(笑)
「ロンドンに行ったらずっと会えないんだぜ?」
「お・・おう!」
「一生会えないかもしれない。みはるさんも悩んでるっぽかったしね。」
オレは・・やけに協力的な・・親友を疑いの目で見る。
まぁ・・オレの気持ちを伝えた方がいいのは・・わかってるから。
素直に・・感謝した方がいいのかな・・。
それにしても・・オレって・・いつの間にこんなに彼女のことが好きになって いたんだろう。
オレを見つめる・・まっすぐな瞳。
曇りのない・・澄んだ2つの宝石。ずっとオレを見て欲しかった。
確信したのは・・たぶん・・みはるさんが階段から落ちたとき・・。
どうしていいか分からなくなっていてパニくっていた彼女を・・思わず抱え上げて 運んだとき・・
いつも気丈にふるまっている彼女だったから、不安そうな表情を 見たせいかもしれない。
「翼は・・好きな人いないの?」
何となく・・聞いてみたりして。相棒は・・突然何言うんだって顔してる。
「・・・・」
無言・・ああいるんだ。ふ〜ん。
「ま・・オレのことは・・いいから。ね・・うん。」
翼は・・リモコンでチャンネルを変えてる。
焦ってる焦ってる。まぁ・・いいや・・翼くんのアドバイスを素直に聞こう。
オレたちは、翼が早朝のロケなので・・早めに寝ることにした。
といっても・・起こすのは・・オレなんだよね・・。(笑)



―つづく―




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