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瞳で殺せ!!第2章
when I sit by him
2001年9月
しいな 作


「みはるさん?」
彼女は、慌てたように部屋を出ていった。
オレはシャツを脱いで衣装に手を通しながら、みはるさんの後ろ姿を見つめていた。
「どうしたんだろ。急に・・。」
私服のジーパンを脱ぎ捨てて、CKのボクサーパンツ一丁になる。
そして、用意されたレザーのパンツを履いて靴も替える。
「トイレじゃないの?イライラしてたみたいだし。」
スタイリストさんがそうきっぱりと断言する。
「そうっすか?イライラっていうより・・悩みがありそうな感じだけど・・。」
オレは、鏡の前に立ってる。
スタイリストさんは丈をみたりしてる。
「さあねぇ。悩みかぁ・・聞いてないけどなぁ。」
気に留める風もなく次の衣装を準備して選び出した。

最近・・様子が変なんだよな・・。
オレが話しかけると、一瞬身構えるっていうのかな。
そのあとは・・普通なんだけど笑顔も何だか寂しそうに見える。
他のJrとかには・・そういうのはないみたいなんだよね。
いつもと変わらない・・みはるさん。
オレだけなのかな?オレといるときだけなの?何でだよ。

10分程で彼女は戻ってきた。
「どこ行ってたの?具合でも悪かったの?」
メイクを直してもらうときに、聞いてみた。
彼女は、目を見開いてびっくりしたようにオレを見つめる。
「急に・・慌てて出て行くからさ・・。」
彼女は・・戸惑った表情。
「うん・・急にね。気分悪くなって・・ごめんね・・もう大丈夫だから。」
また・・綺麗な彼女の瞳は・・オレを見ない。
直すとそのまま離れて行ってしまう。
前は、「頑張ってね。」とか「しっかりね。」ってちゃんと目をみて声を 掛けてくれたのに。

「ほら!タッキー!笑って。」
ライトが当てられてオレはセットに立ってる。
カメラマンがオレに向かってファインダーを覗きながらそう言った。
そんなの・・無理に決まってるじゃん。笑えるかよ。
オレは・・みはるさんを見つめる。強く・・こっち見ろよっ。
だけど、辛そうに眉をひそめる。
「どうしたの〜?しょうがないな。休もうか・・。」
カメラマンのその一言で撮影は一時中断。

「珍しい・・滝沢が笑わないなんて・・。」
・・・聞き覚えのある声が聞こえる。振り向くとオレは・・一息ついた。
「おっす!おや?何かあった?元気ないじゃん。」
ジャニーズJr・・6年のつき合いになる。ダンスリーダー、今井翼だった。
Tシャツにしろっぽいカーゴパンツにスニーカー。
ドラマの撮影が毎日入っていて眠そうだ。
「仕事終わったら聞いてやるよ。」
荷物を置いて座って本を読み出した。
オレは・・その後なんとか仕事をこなしていく。
みはるさんは見た目は普通にしてたけど・・明らかにオレに対しては変だった。






 私がたぶん、滝沢くんを意識しはじめたのは・・あの時だ。
それまでの彼への気持ちは、年下で弟みたいな存在だと思っていた。
もしかしたら・・そう思いこんでいただけなのかもしれないけど。
あの一瞬の出来事で私の彼への思いは・・年下の男の子から・・ 男性へと変わっていった。
それは、一ヶ月も前のこと・・。

その日、私は、Tシャツとデニムのカプリパンツにピンヒールのミュールという 服装で・・
腰に美容師の命のハサミなどを収納するバックをつけてメイク道具を 抱えて飛び回っていた。
「みはるちゃん・・それ・・高いし怖いよ。」
履いてるミュールを見てライターさんにそう言われた。
確かに・・高いかもな〜5cmはあるかな。
「折れそうだよ。気を付けないと・・。」
カメラさんにまでそう注意された。
うん、仕事に履いてくるんじゃなかったな・・と後悔してるけど。
私は、控え室にいる滝沢くんを呼びに階段を上っていく。
そして、ドアを2回ノックする。
「はーい。」と低い声がきこえる。彼の声だ。
私はドアを開けて部屋に入る。
「あ・・みはるさん!どぉ?」
・・とにこっと笑う。
その笑顔もその時までは天使のように可愛いと思っていた だけだったのに・・。
「似合う、似合う。」
私も自然と顔がほころんでそう答えた。
その時の衣装は、シンプルでノースリーブにビンテージのジーンズ。
首には、シルバーのネックレス、左手の薬指には、クロスリング。
アクセサリーは、私物だった。
私は最終的に滝沢くんの髪やメイクを少し手直しする。
「じゃ!行こうか。」
一緒にいたスタイリストは、後から行くと言ったので2人で控え室を出た。
「何だか・・そのサンダル・・折れそうだね。気を付けたほうがいいよ。」
年下の男の子に心配されちゃったよ。
「もう・・大丈夫だって!」
なんて、彼の前をパタパタと歩いていく私。
階段が見えて・・手すりにも掴まらずにスタスタと降りていく。
・・と馴れた場所と思っていたのがまずかったのか・・。
体が浮いた。
「わあっ!」
「みはるさん!」
私は・・案の定・・階段から落ちた。
「痛たたたたた!!」
腰を打ち・・全身打撲・。肘と膝も痛い。
「大丈夫?だから言ったじゃん。危ないって立てる?」
階段を踏み損ねてしまったみたい。
駆け寄って来てくれた、滝沢くんにそう言われて立とうとするけど。
「立てない・・。」
なんてこと・・仕事中にこんなドジ踏んじゃって・・。
右足を見ると、何だか色が変わって腫れてきたような気がする。
「ねんざ・・しちゃったかも。骨折だったりして。」
実際は・・捻挫で済んだんだけど。
私は、滝沢くんに先にスタジオに行くように促した。
もう、スタイリストが来るだろうし、誰か手の空いてる人でも呼んで貰おうと 思った時・・。
私の体が中に浮く。さっきの一瞬の事ではなくて・・。
彼が私を軽々と抱きかかえたのだ。
「たっ・・滝沢くん!いいよっ、重いでしょっ?」
すると彼は、優しく穏やかに私を見る。
「大丈夫だって!まかせてよ。誰かに病院連れていって貰おうよ。
オレが送りたいけど・・仕事が残ってるから無理なんだけど・・。」
そう言えば・・車買ったって言ってたっけ・・じゃなくて!
彼は真剣な表情に変わって慎重に私をスタジオへ運んでいく。
その時の彼の男らしさと逞しさ。
真剣な眼差しで・・私を見つめる瞳。
その一瞬で・・彼に恋してしまったんだと・・今、確信する。
滝沢くんを意識してしまうようになった。
スタジオに行くと、みんなが心配して集まってきてくれた。
私は邪魔にならないように隅っこにイスに座ることになった。
「だから、言ったのに。でも、驚いた〜、タッキーって力持ちだねぇ。」
カメラマンやスタッフからお説教。私は素直に謝る。
その撮影の間も彼は私を気遣ってくれる。
お化粧の直しも私の所にわざわざ来てくれたり・・。
右足は、ズキズキするけど・・胸もずきずきと痛む。
こんなに近くにいるのに・・でも、手の届かない人。
好きなのに気づいたのに遠い存在と改めて思った。
それから、そのやさしく、吸い込まれそうな・・黒曜石の瞳から目が離せなくなった。


―つづく―



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