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瞳で殺せ!!第1章
when I sit by him
2001年9月
しいな 作


彼の瞳を直視出来ない。
見つめられると、光につつまれるような感覚に陥ってしまう。
めまいを覚え痺れさえ、私の体に起きてしまう。
彼の瞳を見つめられない。
もし・・触れられたら・・どうなってしまうか・・わからない。
どうして・・こんなに好きになってしまったのだろう。
でも彼の瞳を逸らさずにはいられない。
心臓を射抜かれてしまう。全身が・・燃えるように熱くなる。
だから、お願い・・そんな風に・・見つめないで・・。
あなたの瞳で・・死んでしまうかもしれないから。




「おはようございまぁ〜す。」
甲高い声や低い声の男の子達の声が聞こえる。
今日は、アイドル誌のグラビア撮影でスタジオにはセットが組まれている。
私、安西みはるは、ヘアメイク担当で職場からの出張中。(美容師なのよ。)
今日の撮影は・・ジャニースJr。美少年達が続々とやってくる。
元気な声、やんちゃな声。色々なトーンの少年達の声が響く。
だけど・・つい・・彼の声に反応していまう。
「おはようございます。」
低めのハスキーボイス。歌声は、バラードでは甘くて優しい。ロック調は激しく 声を震わせる。
声を聞いただけで胸の鼓動が押さえられない。
「みはるさん、おはようございます。」
彼が声を掛けてくれる。丁寧に礼儀正しく。私は、息を整えて言う。
「おはよう。滝沢くん。」
振り返って彼を見る。
滝沢秀明くん。ジャニーズJr.アイドル予備軍のリーダー格。
髪はオレンジ系で染めた前下がりのボブ。
最近、愛用のめがねを掛けている。
その奥からには、吸い込まれそうなほどにきれいな宝石が輝いている。
「みはるさん、お願いがあるんだけど・・。」
最近、めっきり大人っぽくなって男らしくなった彼。
いつからだろう・・。視線を交わす度に鼓動が早くなりはじめたのは・・。
気が付くといつも姿を追ってしまう。
「どうかした?オレの顔になんかついてる?」
彼の声で我に返る私。
「あっ・・ごめん。それで?何・・お願いって。」
慌てて聞き返す。言えやしない・・見とれてたなんて・・。
「うん、ちょっと・・前と横が伸びてきたから、切って欲しいんだ。」
と上目づかいで前髪を指で触ってる。
大人になったなぁと思ってもそんな姿は、まだまだ少年っぽい。
「いいよ。今日は、私が滝沢くんの担当だから。」
「そうなんだ。よろしくお願いします〜。」
わざと、丁寧にお辞儀してる。相変わらず茶目っ気たっぷり。
「知ってる?みはるさんの時ってファンの子からの評判がいいらしいよ。」
笑顔で嬉しそうに私に向かって言う。
「それはねぇ。たぶん、私が滝沢くんのファンだからじゃない?ファンの女の子の 気持ちが分かるからかな。」
そうだよ。好きな人がどんな格好をして欲しいかとかって共通だもの。
私がカットに準備をしながらそういうと。
「えっ?・・はじめて聞いた・・。そうなの?」
彼は私の方をじっと見つめてそう言った。
戸惑っているような・・複雑な表情。
「あれ?言ってなかったっけ?あっ・・でもぉ・・。翼くんも山Pも好きよぉ。 よろしく言っておいてね。」
わざとおどけて言ってみた。
「なぁんだ・・。オレ、オンリーじゃないんだ。」
彼は、メガネをはずす。美しい瞳と彼のチャームポイントのひとつ泣きぼくろが現れる。
着ていたジャケットを脱いでハンガーに掛けてる。
すごく残念そうに聞こえるのは・・私の空耳?
嘘だよ。君しか見えてないんだから。
心の中で・・そっとつぶやく。
彼は、鏡の前に椅子をひいて座る。
私の準備が整うまで買ってきた雑誌に目を落としてる。
さて・・ここからは・・心してかからなければ・・。
鏡を見ると・・私が準備を終えた事に気が付いた彼が鏡の前にやってくる。
椅子に座って鏡越しに私を見つめる。
「さて・・始めますか。今日のコンセプトはセクシィーなんだって。」
「なんだよ。それっ。」
笑顔全開。それだけで・・まぶしい。私の手元を狂わせるには十分なので 注意しなければならない。
彼の体に大きいケープを広げて掛ける。
私が作業をはじめると、その様子を彼はじっと見ている。
その視線は、まさに射抜くように光をはなっていて・・私は緊張してしまう。
少しぬらした、彼の髪を・・少しずつカットしていく。
サイド、前髪・・慎重にハサミを入れていく。 うん・・いい感じかな。
ドライヤーで濡れた髪を乾かしてセットしていく。
「できたよ。メイクもしちゃおうか。」
そういって前髪をピンで止めると「ああ・・これが・・いやなんだよなぁ。」と 呟く。
まぁ・・塗らなくてもきれいなんだけど・こればっかりはねぇ。
ライトとかもあるから・・。「我慢してね。」と言い含める私。
滝沢くんも、そんなことは分かってるから・・ただ頷く。
ファンデーションを彼の素肌に塗っていく。閉じた睫が長い。
唇もふっくらとして艶やかだ。相変わらず・・ノリがいいわね。と関心しながら、 手元が狂いそうで怖い。
理性を保つのも大変だったりする。
「みはるちゃん!どう?出来た?おぉ〜いいじゃん。」
部屋にスタイリスト(男)が覗きに来た。
「うん、自分でもいい感じだと思う。」
私は、彼の顔についた小さな髪の切れ端をブラシで取ってる。
「OK!バッチリ。ハンガーにね衣装掛けてあるんだ。合わせよう、滝沢くん。」
スタイリストがそう声を掛けると滝沢くんは、「はい。」と椅子から立ち上がる。
衣装を渡されると頷いて受け取った。
私は・・それを・・後片付けしながら 鏡越しに見ていた。
ふと、滝沢くんは私の方に一瞬視線を向ける。どきっとするくらい大人びた表情。
そのあと・・ためらいもせずに 着ていたシャツを脱ぎだした。
上半身が露わになり雑誌にも載った鍛えられた体が目に飛び込んでくる。
逞しい胸板、腹筋、肩胛骨、肩・・。
私は、鏡に映る彼の肢体から目が離せないでいる。
慌てて・・道具を片づけて・・控え室から飛び出して行く私。
それに気づいて「みはるさん?」という滝沢くんの声が後ろから聞こえた。
私はトイレに脱兎のごとく駆け込む。
「はぁ・・。」
息を吐いて・・自分が映った鏡をみつめる。
なんて・・顔してるんだろう。肌は・・真っ赤だし・・今にも泣きそうな表情。
「だめだぁ・・どうしよう。」
まだ、心臓の脈打つスピードが収まらない。
滝沢くんを見る度、こんな調子じゃ先が思いやられる。
私の体と精神はもつのだろうか・・。


―つづく―




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