Everything…
2章
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2000年12月 海亜 作 |
2人の間に長い沈黙が漂っている。 店内に流れているオルゴール調の音色が心に響く。 曲が変わったと同時に ずっと俯いたままでいた美亜さんが顔を上げた。 『あっ、この曲・・・。』 そして独り言のように呟いた。 桜の花びら舞う 公園で空を見てた 今頃あなたは どんな 春を見つめてるの いつもね あなたの笑顔 思うだけで やさしい気持ちになれるよ 泣けちゃうほど せつないけど 信じているんだ あなたとの未来を 逢えなくても いつでも どこにいても 心は隣にいるから 『・・・辛い時、悲しい時、この曲を聴いてました。 サヨナラしたのは自分なのに・・・心は繋がってる。 いつかは一緒に・・・。なんて思ってました。』 泣けちゃうほど せつないけど がんばっているよ あなたと私のため どんなときも 本当に大切なコトだけを 見つめ続けてね 『こんな自分勝手な私の事、どうして和也くんは好きなんだろう? 私が男だったら・・・もう忘れてるよ。絶対に。 こんなに臆病で卑怯者の私に、どうして言うんだろう? “付き合おう”なんて。そんな事言ってもらう資格無いのに・・・』 美亜さんは自分を諭すかのように言っていた。 大きな瞳に、いっぱい涙をためて。 それが零れないように我慢してるのが分かった。 ほんとは 今すぐ あなたに逢いたくて 声を聴きたくて・・・・ 今、美亜さんは自分の心の中と会話してる。 だから私は、ずっと黙って聞いていた。 『私・・・忘れようと思っても忘れられなかった。 他の人を好きになろうと努力した。でも・・・出来なかった。』 泣けちゃうほど せつないけど 信じているんだ あなたとの未来を 逢えなくても いつでも どこにいても 心は隣にいるから 『会えなくて・・・切なかった。 会った瞬間・・・嬉しくて心が弾んだ。 会ってる時・・・素直な自分になれた。 こんなにも好きだなんて・・・。』 泣けちゃうほど せつないけど あなたが大スキ 私全部で大スキ どんなときも 本当に大切なコトだけを 見つめ続けたい 『泣きたい時は、泣いた方がいいよ。』 私は、そっと言った。 すると・・・幾つのも雫が頬を伝っていた。 私は、ただ泣き止むのを待っていた。 そして5分後。 『ごめんなさい。私、取り乱しちゃって・・・。』 目を真っ赤して微笑みながら私に言った。 『ううん。もう大丈夫?』 『はい。』 『ほんとに?』 『はい。』 そう言ってニッコリ微笑むと、ゆっくり話し出した。 『私、誰にも言えず、ずっと1人で考えてました。 好きだと気付いていても、もうどうしようも無い事。 諦めなきゃ、諦めなきゃダメだって・・・ずっと思ってました。 だから昨日、和也くんに言われて・・・ほんとは凄く嬉しかった。 でも・・・以前の記憶が蘇り、臆病な自分になってしまいました。 付き合ってしまえば、きっと離れてしまう。 好きって言ったら、きっと冷めてしまう。 でも、倫子さんの話を聞いて・・・目が覚めました。 始まってもいない事を考えて悩んで泣くより 始まってから悩んで泣いた方が、ずっといいって。 私・・・和也くんにちゃんと言います。』 その表情は生き生きとして輝いていた。 まるで長い長いトンネルを抜けたかのように・・・。 『じゃぁ、二宮くんに早く伝えなきゃ。待ってるよ。きっと。』 そう言ってテーブルの上の携帯を指差した。 『はい。』 美亜さんは大きく頷いて席を立って行った。 泣けちゃうほど せつないけど あなたが大スキ 私全部で大スキ どんなときも 本当に大切なコトだけを 見つめ続けたい 恋には違った形がある。 楽しく甘い恋、激しく燃えるような恋、優しく穏やかな恋。 泣けるほど切なく苦しい恋も・・・恋。 愛とは・・・大切にし、慈しむ事。 恋とは・・・好意を持ち慕う事。 だから“愛と恋は異なるもの”っていう人がいる。 でも私は同じ事だと思う。 どちらも理性ではなく心で動き、生まれるものだから。 席を立って1分後。 笑みを浮かべながら戻って来た。 随分早いなぁ〜? 不思議に思い聞いてみた。 『二宮くんに言えたの?』 『はい。あっ、でも留守電でした。だからメールを。』 『そっか。』 『でも、スッキリしました。』 『良かったね。』 『はい。本当にありがとうございました。』 『ううん。』 『あっ!今日はご馳走します。させて下さい。』 『そんな事はいいの。』 『でも・・・。』 『じゃぁ、1つお願い聞いてくれる?』 私は会話の中で気になってた事を言う事にした。 友達なのに敬語を使われるのが寂しかった。 と同時に名前も“さん”付けされるのがイヤだった。 だから呼び捨てにしてと言った。 『私の事も呼び捨てでいいからね。』 『うん。でっ、お願い事は?なに?』 『えっ?だから今のがお願いだよ。』 『こんな簡単な事なの?』 『うん。でも大事な事だよ。これからの私達にとっては。』 『あのさ・・・友達だと思っていいの?』 『当たり前じゃん!』 『嬉しい。巡り会わせてくれた神様に感謝しなきゃね。』 そんな恥かしい事を・・・。 でも素直に言える美亜が羨ましかった。 『私ね“一期一会”っていう言葉が好きなの。 今、この瞬間は2度と来ない。 そして生まれてから死ぬまでの間、出会える人は、数少ない。 この時を大事にしよう。 そして出会えた事を大切にしよう。 倫子と・・・出会えてよかった。』 うん。私も。 そう言おうと思った時、着メロが鳴った。 『あっ、ちょっとごめんね。』 そう言って席を立った。 電話の相手は滝沢くん。 どうしたんだろう? 2人の事が気になったのかな? 「あっ、俺だけど。どう?」 やっぱり。 私は嬉しくて声が弾んだ。 自分の予想が当った事と 2人が上手く行きそうな事が嬉しかったから。 滝沢くんに簡単な説明をすると安心していた。 「あっ、そうだ!もう仕事が終わって家に居るんだ。これから来ない?」 『えっ?うっ、うん。』 突然の誘いに心が高鳴った。 イブに会って以来だから・・・5日ぶり。 声は毎日聞いていたけど、やっぱり寂しかった。 「あのさ・・・美亜さんも一緒に来てほしいんだ。」 『えっ?どうして?』 「ちょっと聞きたい事が有ってさ。」 『ふ〜ん。』 「あっ!俺の家って事、内緒ね。」 『え?うっ、うん。』 なぜか心の中がスッキリしなかった。 秘密にしてるのが引っ掛かっていたから。 でも滝沢くんの事だもん。なにか考えがあるはず。 そう自分に言い聞かせ席に戻った。 『あのさ、ちょっとお腹空いて来たと思わない?』 『うん。そう言えば、もう7時だもんね。』 『今から場所変えてご飯食べに行かない?』 『うん。』 そして滝沢くんのマンションへ向った。 途中、美亜の表情は曇っていた。 きっと二宮くんから連絡が来ない事が気になっていたんだろう。 私も滝沢くんの疑わしい言動が気になっていた。 だからお互い上の空で歩いていた。 『ここよ。』 『えっ?どこに店があるの?』 美亜は不思議な顔でマンションを眺めていた。 『あっ、あれ?私、店なんて言ってないよ〜。』 必死になって取り繕った。 『そっか。倫子の家なんだね。』 『う〜ん・・・。』 答えに詰まって困った顔をしていたと思う。 美亜も困っていたから。 そしてエレベーターに乗って部屋の前に着いた。 当たり前だけど表札は無い。 ピンポーン! チャイムを押した。 『えっ?倫子の家じゃないの?』 『ごめんね。滝沢くんの家なの。』 『えー!!』 美亜は驚いて、おろおろしていた。 ガチャ! 『よ〜!』 眩しいくらいの笑顔。 不安な気持ちが薄らいでいくのを感じた。 『久しぶり。』 笑顔で答えた。 『今日は突然・・・ごめんな。』 『ううん。あっ、美亜も一緒だよ。』 『あっ、そっか。こんばんは。』 『こっ、こんばんは。』 『さ、入ってよ。』 『あっ、うん。お邪魔しま〜す。さっ、美亜も入って。』 私はそう言って靴を脱いだ。 そしてリビングに向って歩きだした。 『あ、あのさ・・・私、お邪魔じゃない?』 『そんな事ないよ。滝沢くんが一緒に来てって言ったんだもん。』 『えっ?』 思わず本当の事を言ってしまった。 『私も訳分かんないんだ。とにかく中に入ろう。ねっ。』 『うっ、うん・・・。』 ―つづく―
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