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Everything… 3章 
2000年12月
海亜 作


リビングに入ると、いい匂いが漂っていた。
コタツの上にはコンロが。
『あー!鍋だぁ〜。』
思わず大きな声で言った。
『倫子さ〜ん!ちょっと手伝ってよ。』
キッチンで滝沢くんが私を呼んだ。
『私も手伝いしようか?』
『ううん。美亜はお客さんだからコタツにでも入ってて。』
『うっ、うん・・・。』

『ねぇ〜。なに企んでるの?』
白菜を切ってる時に聞いた。
『えっ?なんの事?』
『私達をここに連れて来てさ〜。』
『倫子さんに会いたいからに決まってるじゃん!』
『・・・嘘付いてる。』
『えっ?嘘じゃないよ。まじ会いたかったんだよ。』
『だったら、私一人でもよかったじゃん。』
『まぁ〜そうなんだけど・・・。』
『美亜に会いたかったの?』
『なに言ってんの?あ〜!嫉妬してる?もしかして?』
『なっ、なに言ってるの!そんな事・・・ある。』
正直に言ってみた。
『ったく、心配症なんだから。倫子さんにも驚かせようと思ったのにな〜。』
『どう言う事?』
『実は・・・今から二宮が来るんだよ。』
『えっ!!』

ピンポーン!
チャイムが鳴った。
『すいませ〜ん、出てくれませんか?』
リビングに居る美亜に向って言った。
『えっ?私が?』
『はい。今手が離せなくって。お願いします。』
『うっ、うん・・・。』

美亜は恐る恐る玄関へ向って行った。
『大丈夫なの?』
『なにが?』
『だって・・・』
『あぁ、二宮だよ。きっと。』
『えっ!!』
私は手にしていた椎茸を放り投げ美亜の後を追った。
そして気付かれないように、そっとドアの隙間から見ていた。

『覗き見なんて・・・趣味悪い〜。』
背後から小さな声が聞こえた。
『人聞き悪い事言わないでよ〜。』
『しっ!そんな大きな声出さないの。』
『そっか。ごめん。』
そして2人の会話に聞き耳を立てた。

***************************

『なんで、ここに居るんだよ。』
二宮くんは少し不機嫌そうな顔だった。
『和也くんこそ。どうして?』
『滝沢くんに呼ばれたんだよ。』
『私も。』
『えっ?どう言う事?』
『分かんない。』
『滝沢くんは?』
『今、倫子さんとキッチンで料理作ってる。』
『倫子さんも居るの?』
『うん。あっ、あのさ・・メール見てくれた?』
『えっ?もしかして携帯に入れた?』
『うん。1時間程前に電話したんだけど留守電だったから。』
『今日、携帯、家に忘れたんだ。ごめん。』
『ううん。』
『でっ、なんか用だったの?』
『ううん。いいの。』
『なんだよそれ。』

2人の会話が煮え切らないのを感じ滝沢くんがドアを開けた。
『よ〜!』
『あっ、こんばんは。』
そう言って二宮くんは私達の居るリビングに近付いて来た。
その後を美亜がトボトボと歩いていた。
すっかり笑顔を無くしている。
二宮くんに会えて嬉しいはずなのに・・・。
どうしたんだろう?

『今日は、わざわざごめんな。』
『えっ?ううん。あっ!なんか良い匂いがするね。』
『おっ!気付いた?鍋作ったんだ。』
『へ〜、凄いじゃん!』
『ま〜な〜。もう少しで出来上がるからコタツにでも入っててよ。』
『うん。』

『お待たせ〜!』
私がコンロに鍋を下ろした。
『おっ!イイ感じ〜!』
滝沢くんは妙に張り切っていた。
沈んでる2人を何とか盛り上げようと思ったんだろう。

だから私も元気に言った。
『美味しそう!!やっぱ冬はコタツで鍋に限るね!
あっ!でもアイスも美味しいよね。ねぇ?そう思わない?』
美亜に聞いてみた。
『えっ?うっ、うん。そうだね。』
『私は“爽”で美亜は“ピノ”?』
『えっ?』
『でっ、お菓子は“クランキー”と“プチ”?』
『えっ?』
私・・・何言ってるだろう。
美亜が返事に困って焦ってるよ・・・。

鍋のグツグツ煮えてる音だけ聞こえる。
その時、滝沢くんのが助けてくれた。
『倫子さん・・・対決して、どうすんの?』
『そうだよね。アハハ。』
苦笑いした。
『ぶっ、ハハハー!』
二宮くんが笑った。笑ってくれた。
それを見て美亜も笑っている。

私は滝沢くんと目を見合わせて会話をした。
“良かったな。” “うん”

『あ〜!もう煮え切っちゃってるよ・・・。』
二宮くんが笑いながら言った。
『ほんと、早く食べなきゃ!』
美亜は嬉しそうに言った。
『うわ〜、俺の傑作がぁー!』
滝沢くんが元気に言った。
『はい!みんな挨拶してから食べるのよ〜』
私が先生っぽく言った。

今度は4人手を合わせて言った。
『いただきま〜す!』

会話は殆ど事務所の話になった。
美亜は初めて聞く話に、ただ驚いていた。
そして時々2人に騙されて笑われていた。

『酷いよ〜。みんなで私を笑い者にして・・・。倫子まで。』
『ごめん!あっ!美亜の癖移っちゃった。アハハ。』
『もう・・・。』
『そんなイジケないの。』
二宮くんは美亜の頭をポンポンと叩きながら言った。
その姿がなんとも微笑ましく羨ましく感じた。
私も・・・ポンポンされたいなぁ〜。滝沢くんに。

1時間後。
材料がすっかり無くなった。
『倫子さん。片付け手伝ってよ。』
『うん。』
『あっ!私も手伝うよ。』
『いいの。美亜は二宮くんと話してて。』
『でも・・・。』
『お邪魔なんだってさ。』
二宮くんが言った。
すっ、鋭い!!
『まっ、そう言う事だから。』
滝沢くんが答えた。
『そう?じゃぁ、お願いするね。』
『うん。』
そして私達はキッチンへ向った。

TVと水の音が邪魔して2人の話し声が聞こえない。
でも、時々笑ってる声が聞こえた。
それを聞いて安心した。

『良かったね。』
滝沢くんに言った。
『うん。』
そう答えた顔が嬉しそうだった。
『でも、最初は焦ったよね。空気が重かったから。』
『うん。俺が仕組んだのが裏目に出ちゃったのかなぁ・・・って思ったよ。』

そう言えば・・・私は気になってる事を聞いた。

『ねぇ〜。なんで私に隠してたの?』
『だってさ〜。倫子さんポロっと言っちゃうかな?って思ってさ。』
『酷〜い!私・・・まじで心配だったんだから。』
『ごめん!って。でもそんな倫子さん見れて嬉しいな。』
『えっ?!あっ、誤魔化そうとしてるでしょ?』
『バレた?アハハー。』
『もう〜!』
『そんな怒んないの。』
そう言って頭をポンポンしてくれた。
その事が妙に嬉しくなって思わず答えた。素直な一言を。
『うん。』

1時間後。
ようやく片付けが終わった。
二宮くんはコートを手にしていた。

『あれ?もう帰るのか?』
滝沢くんが二宮くんに言った。
『うん。明日早いし。』
『そっか。』
『今日は色々とありがとう。』
『いいんだよ。』
『最初訳分かんなかったけど・・・こういう事だったんだね。』
『なにが?』
『つまり・・・美亜に会わせてくれた事。』
『えっ?おっ、俺も倫子さんが会いたかったからだよ。』
『ハハハー!そういう事か。』

私に聞こえないように小声で言ってるけど・・・しっかり聞こえていた。
全身が赤くなってるような気がした。
あっ!こんな時は美亜に話を振ろう!
と思って部屋を見回した。
あれ?
美亜が居ない事に気付いた。
着てきたコートも無い。

『ねぇ?美亜は?』
私は二宮くんに尋ねた。
『あぁ、そっちで電話してる。』
そう言って廊下を指差した。
『どこへ?』
思わず聞いてしまった。
『実家って言ってた。』
『ふ〜ん。』
確か明日帰るって言ってたっけ・・。
もしかして、帰らない事にしたのかな?

『あっ!そうだ!お前にちょっと見てもらいたい物が有るんだ。』
滝沢くんが二宮くんに言った。
『なに?』
『昨日、曲を作ってみたんだ。』
『へ〜。』
そして、2人は隣の部屋に行った。

カチャ!
『お待たせ。あれ?和也くんは?』
『今、そっちの部屋で滝沢くんの作った曲を聴いてるの。』
『そっか。あっ、今日はほんと、ありがとね。』
『ううん。私の方こそ、ありがとう。』
『えっ?なんで?』
『あっ、美味しい鍋が食べれたし、話も出来たし。』
『うん。楽しかったよね。また・・・4人で会えるといいなぁ。』
『会えるよ!絶対に。』
『うん。』

『まじ、イイ感じの曲じゃん!』
『そっかぁ?サンキュ〜。』
部屋から2人が出て来た。

『あっ、ごめん。待った?』
二宮くんが美亜に気付いて言った。
『ううん。』
『じゃぁ、行こっか。』
『うん。』
嬉しそうに二宮くんを見詰める美亜を見てると 私まで嬉しくなった。
滝沢くんも・・・嬉しそうだった。
それを見てより一層嬉しくなった。

2人を見送った後、コーヒーを飲んでいた。
時計を見ると午後11:50。

『きっと・・・今頃、告白してるよね?』
滝沢くんに聞いてみた。
『うん。』
『よく考えたら両思いって凄い事だよね。奇跡に近いかも。』
『だよな〜。』
『世の中には色んな人が居るのに・・・たった一人の人だもん。』
『倫子さんは俺でよかったって思ってる?』
『えっ!うっ、うん。』
『俺も倫子さんでよかったって思ってる。』
『あっ、ありがとう。』
『俺にもこんな日が来るなんて思わなかったなぁ〜。』
『こんな日って?』
『彼女とイチャイチャみたいな。』

ピピ!
時計のアラームが12時を知らせた。
『えっ!もうこんな時間?』
滝沢くんが驚いて言った。
『気付かなかったの?』
『うん。終電無くなっちゃったね。どうする?』
『あのさ・・・。今夜は、ここで眠りたい。いい?』
勇気を振り絞って言った。
『ダメだよ。』
真剣に言われ・・・落ち込んだ。

この前、電話で
“分かった。近い内、も・ら・うっ!から。覚悟はいい?”
なんて言ってたのに・・・。
もうすっかり忘れちゃったのかな・・・? ・。』

―つづく―




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