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儚き春の光・・・十一夜
hikari akihide story
2001年7月
海亜 作


どれくらい時間が経ったのだろう。
凄く長い間深い眠りについていたような気がする。

『秀明!秀明!』

『う、、ん・・・。』
俺はその声で目が覚めた。
どっかで聞いたような声だな〜。
ゆっくり目を開けた。
すると心配そうに覗き込んでる人が。
えっ!あ、あっ!
今にも泣き出しそうな母さん。

『良かった・・・』
『え?何が?』
『何って・・・覚えてないの?』
『えっ?確か・・・朝日を眺めて。で、急に眩しくなって・・』
そう説明すると

『もー何言ってるの!コンサートの練習中にステージから落ちたのよ。
と、とにかく、今先生と時田さんを呼んでくるわね』
血相を変えて部屋を飛び出して行った。
えっ?あれ・・今「ときだ」って言ったよ・・な?
で、俺が・・・練習中に落ちた?
あー!
俺は全て思い出した。
リハの時に変な体勢で頭から落ち、激痛が走り意識が遠のいて行くのを。
えっ?もしかして戻ってきた?
部屋を見渡すと・・いかにも病院って感じがした。
慌ててカレンダーを見た。
【平成10年】
そっか・・・戻ってきたんだ。


ガチャ!!
母さんが戻って来た。
時徒さんじゃなく時田さんとお医者さんを連れて。
『どれ、どれ?』
お医者さんが俺の頭に手をやったり手を取って脈を測った。
『体に異常は無いようです』
当たり前だよ。
この前の健康診断でも異常無しだったんだから。

って、懐かしいな〜。この光景。
俺が過去へ行った時と同じだ。

『ですが・・・』
えっ?まさか・・・記憶喪失なんて言わないよな?
固唾を呑んで先生の返事を待つ3人。
『念の為2、3日入院して頂きます』
あ〜良かった。
俺はそう思ったのに時田さんは、こう言った。
『えーーーっ!!2、3日も。ですか・・・』
肩の力を落として目はうつろ。
俺が長い眠りに入っていて狂ってしまったスケジュール。
それがまた2、3日も延びたら・・落ち込むのも無理はない。
仕事熱心な時田さんの気持ち・・痛いほど解る。
だけど・・・少しは俺の体の心配をしてほしいな〜。なんてね。

時田さんの表情を見て母さんが言った。
『秀明は今まで休む事も無く走り続けて来ました。
だから、良い機会だと思って少し休ませてやって下さい』
母さんのそんな言葉・・今まで一度も聞いた事が無かった。
俺も・・・時田さんも言葉を失って黙っていた。

続けて母さんが頭を下げて言った。
『お願いします!!お願いします』

時田さんは、母さんの言葉でハッっと我に返り
『そ、そうですよね。この事、今から事務所に報告してきます』
そう言って部屋を出て行った。


『母さん・・ありがとう』
『ううん。あ、お前の大好きな桃有るんだけど食べる?』
『うん。あのさ・・俺の事心配した?』
『当たり前じゃないの。2日間眠りっぱなしで・・・。
お母さん生きた心地がしなかったわよ。でも、どこも異常無しで良かったわ』
『そっか。ごめんな。でも・・なんか嬉しいよ』
心の底からそう思った。
そんな俺を母さんは不思議そうにジーっと見て言った。
『秀明・・やっぱりもう一度精密検査してもらおうよ』
『ほへっ?なんでぇ?』
口に入れた桃を落としそうになった。
『だって・・・妙に優しいんだもん。変だよ。やっぱり』
『ひっ、ひっでぇ〜〜〜っ』
『ねっ!自分でもそう思わない?』

確かに・・母さんには何かと反抗してたっけ。

『寝てる間に人生観が変わったんだよ』
『そう?そうだといいんだけど・・・』
母さんはまだ疑ってる様子。
ほんと、色々あって大変だったんだよ〜
って言いたいけど過去にタイムスリップしたなんて信じてくれる訳ない。
言ったら、きっと「再検査!検査ー!」ってうるさいだろうなぁ。 それにしても過去の出来事・・・

儚き春の光のような日々は・・夢だったのだろうか

―つづく―




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