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儚き春の光・・・九夜
hikari akihide story
2001年7月
海亜 作


翌日。
俺の提案を話した。
朱果の予想通り大賛成してくれた。
そして、それから毎日夜遅くまで稽古をした。
みんなと長い時間一緒に過ごし、次第に仲間意識も増した。

あの日以来、朱果は姿を現さない。
気になっていたけど、それ以上に疲れていたので考えられなかった。
毎晩、布団に入ると
1!2!3!ダーーっ!の勢いで深い眠りについていたから。

そして、いよいよ本番。
今までの練習の成果を発表する時が来た。
会場の宮中には凄い数の人が居た。
これまでは宮中の人だけが見れたこの行事。
でも、今年は京の都の人が見れるようにした。
農民、町民、色んな人々が俺達の出番を待っている。

う〜〜〜ドキドキするな〜。
久しぶりの、この感触。
自然と笑顔が零れる。

明かりがぼんやりし、緞帳が揚がった。
まずは5人囃子が出陣。
その勇ましさに観客から拍手の嵐!嵐!嵐!嵐!嵐ー!
続いて女装をした可愛い3人官女。
ちらほら黄色い声が聞こえる。

わぁ〜〜。お人形さんみたい。

そして、いよいよ俺達の出番。
お内裏の翼の後を静々と下を俯きながら歩く俺。
立ち位置に止まった時、顔をそっと上げた。
すると観客から、どよめきが巻き起こった。

えっ?あれは・・ま、まさか!明秀さま?!
何を血迷ったのでございましょうか。
秋の宴で舞台から落下された際、頭を打ったと聞きましたが・・やはり。
そう言えば、あれから人格がお変わりになられたような・・・。


そんな声が聞こえる。
みんなも少し動揺しているのか、目が泳いでいた。
どうしよう・・・。
そんな俺をリードしてくれたのは翼だった。
『大丈夫です。今はただ驚いてるだけにございます』

俺は気を取り直し、無我夢中で舞を踊った。

明秀さま・・・キレイ。

観客の人、全ての目がハートになっている。
女性はもちろん。男までもが・・・(^^;

そして、今度は、いよいよ大太鼓の番。
十二単の重い衣装を脱ぎ捨て化粧を素早く落とし
上半身は透ける薄衣、そして下半身は紫色の袴で準備完了。
うって替わってキリリとした男っぽい衣裳。
当然、観客から、またどよめきが起こった。

ドン!ドン!ドン!

大きな音を出すと会場中がシーンと静まり返った。
ここに居る全員が俺達の演奏に聞き入ってる様子。
そして割れんばかりの大歓声と拍手喝采を浴び、幕を閉じた。

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やり遂げた安堵感と、爽快感で気分は晴れ晴れしていた。
フルマラソンを完走できたような・・まさに、そんな感じ。
だから自然に笑顔が零れた。
みんなもそんな感じだった。

『明秀様・・・。こんなに心が揺れ動く感動は初めてでございました。
また、一緒に何かをやり遂げたいと思っております』
翼が涙ぐみながら言った。
周りを見渡すと、みんなも涙ぐんでいた。
そんな様子を見て泣きそうになってしまった。
今までの色んな事を思い出したから。
込み上げてくる感情と零れそうになる涙を抑え、この言葉を言うのが精一杯だった。
『ありがとう。ありがとう・・・』

数時間前まで人が沢山居た会場に1人で向った。
床に寝転がり、天井を仰ぎ、しばらくボーっとしていた。
みんなと同じ事をする事がこんなに楽しいなんて久しぶり。
懐かしいな・・・。
今は・・・きっと春コンのレッスンかぁ。
大丈夫かな?

懐かしくなり気づいたら一筋の涙が頬を伝っていた。
あぁぁ。やっぱ戻りたいよ。あの頃に・・・。

『明秀様?いかがいたしました?』
俺を呼ぶ声が聞こえた。
上から覗き込むような形で俺を見てる。
この人は・・・一体誰だ?
心の奥がざわざわする感じがし、胸が熱くなった。

―つづく―




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