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儚き春の光・・・二夜
hikari akihide story
2001年7月
海亜 作


『う〜ん・・・』
どれ位寝ていたのだろう?
部屋を見回したけど時計が無い。
悪夢だと思っていたけど・・・やっぱり夢じゃなかった。
現に頬を抓ってみた。痛てぇ〜!!
あの人・・・時徒(ときただ)さんが言う通り、ここは平安時代なんだろうか。
俺は平成の時代からタイムスリップして来たのだろうか。
それとも・・・記憶を失っていて今有る記憶が変なのだろうか。

しばらくして、すだれ(?)みたいな物の向こうから女の人の声がした。
『明様。お加減はいかがでございますか?』
そう言って、静々と部屋に入って来た。
『あ、あの・・・』
俺はその人の名前が分からず躊躇(ちゅうちょ)していた。
すると、その人は優しく微笑みながら言った。
『美輪花(みわか)でございます。薬湯をお持ち致しました』
『あ、ありがとうございます』
『ゆっくり思い出して下さいね。わたくしの事も』
艶っぽい目で俺を見てる。
ドキっ!!
『はっ、はぁ・・・』

思い出して・・・って言ってもなぁ。
俺は滝沢秀明なんだよ。
昨日は何をしてたっけ?え〜っと・・・えっと・・・。
思い出そうとしても思い出せない。

『あの・・・おっ、俺。わたしは何歳なのですか?』
美輪花に尋ねた。
『17にございます』
年齢は合ってるのか。
『じゃぁ、お、わたしはなんの仕事をしてるのですか?』
『主に宮中の政(まつりごと)でございます』
『まつりごと?』
『はっ、はい』
何なんだ?その仕事は?
祭りをする事なのか?
考えても考えても分からない。
あぁ、、、もっと勉強しておくんだったなぁ。
まっ、いっか。悔んでも、もう仕方が無い事。

俺は次の質問をした。
『あなたは?何の仕事をしてるんですか?』
『わたくしは明様の女房(にょうぼう)でございます』
『えっ?にょっ、女房?』
『はい』
美輪花はキョトンとして俺を見ていた。
明秀は、17歳という若さで結婚してたのか?

『あの・・・あなたは今、何歳ですか?』
『19でございます』
と、年上なのかぁ〜。
『あの・・いつ結婚したのですか?』
『12の時に元服された翌々年でございます』
って事は・・・14歳で!!まじかよ〜。嘘だろ?
信じられない!平成の時代じゃ考えられない事だ。
3年前に結婚したって事は・・・まさかっ!!
『もっ、もしかして・・・子供とか居ますか?』
『いいえ。まだにございます』
美輪花はほんの少し顔を赤らめて答えた。

『明様ったら・・・先ほどから質問攻めでございますね』
『あっ、すみません』
『いいえ。こちらこそ生意気な事を申しまして・・・お許し下さいませ。
病み上がりの大事なお体だという事を忘れておりました。
わたくしは、これにて失礼致します』
そう言って部屋を出て行った。

色んな事が頭の中に押し寄せて、しばらくの間、呆然としていた。
あの人が俺の奥さんで・・・14歳で結婚。

すると遠くで男の子の声が聞こえた。
女房というのは、つまり召使の事だよ。
だから、あの人は奥さんじゃないんだよ。
えっ?でも・・さっき結婚してるって言ったような。。。
あれは自分の事だよ。
明秀さまはね。まだ結婚してないの。
本人は“身を固めたら女遊びが困難になる”なんて言ってるけど本当はね、
心の底から好きになれる相手を探してるんだよ。


『へぇ〜。何でも知ってんだな。って・・だっ、誰?』
あ、挨拶まだしてなかったね(^^;
僕の名前は朱果(しゅか)ヨロシク!!
『は、はぁ・・・』
馴れ馴れしいな〜・・こいつ。
嫌だな〜。フレンドリーなだけだよ〜。
『えっ?あれ?もしかして俺の心が読めるのか?』
うん

え!まじ?!

俺は、その子に歩み寄り近付いた。
すると・・・透けていた。
着ている物じゃなく姿形が!!

『げっ!!幽霊!!!』
思わず言ってしまった。
しっ、失礼だなー!ま〜でも、そんな感じかな?
そう言うと苦笑していた。
『そんな感じって・・・どんな感じ?』
そうだな〜。天使と思ってくれていいよ。
そう言うとニコっと笑った。

ぶっ、天使って・・・着物の天使って見た事無いよ。
俺はそう思った。
すると朱果は俺をギッと睨んで言った。

あっ、そんな事思っていいの?この先苦労しても知らないよ。
そっか・・・こいつ俺の心が読めるんだった。やべ〜!!
『あっ、ごめん!ごめん!』
今更だけど謝った。
まっ、許してあげるよ。
ったく・・・。生意気なやつ。
そう思った途端、ギロっと睨まれた。
やべぇ〜。
でも・・よ〜く考えたらこれってプライバシーの侵害じゃん!
くぅ〜〜〜訴えてやるっ!!って誰に?
うぅ〜〜〜〜。
俺は1人で百面相していた。
ぎゃははははは〜〜。
もう笑わせないでよ。
朱果は笑い転げてる。
ま、いいけどさ〜。

『あ、あのさ・・この先って言ったよな?』
うん
『もしかして俺の力になってくれたり・・するのか?』
うん。そうだよ。
『見ず知らずの俺に?なんで?』
あ、気にしないで。僕の未来の為だから。
『未来って?』
あっ!こっ、こっちの話。じゃ!またね!
『ちょっ、待って・・・』
俺の呼びかけにも答えず消えてしまった。
う〜ん・・・。今のは幻覚なんだろうか?
ますます頭が痛くなった。


―つづく―




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