儚き春の光・・・三夜 hikari akihide story |
2001年7月 海亜 作 |
あくる朝。 俺を心配そうに覗き込んでる男の人が。 『あっ!時田さん!おはようございます』 『若君・・・わたくしは時徒(ときただ)でございますよ』 そっか。この人は時田さんじゃなく時徒さんだった・・・。 やっぱり夢じゃなかったんだ。 『怪我の具合はいかがでございますか?』 『あっ、もう大丈夫です』 『それは良うございました。では本日よりお勤めに戻って頂きます』 『お勤めって・・・“まつりごと”ですか?』 『はい』 “まつりごと”って・・・何だ? やっぱり、あの時聞いておくべきだった。 その時、朱果の声が聞こえた。 政(まつりごと)って言うのは、領土・人民を統治すること。 つまり政治家みたいなものだよ。 『へ〜。って俺にそんな大役が務まるのか?』 『若君?何をブツブツ言っておられるのですか?』 『えっ?あの・・・時徒さんには見えないのですか?』 『何をでございますか?』 見えないんだよ。僕の姿、声はタッキーにしか。 『えっ?あっ、そうなのか?』 『若君・・・。やはりまだ病状がお悪いのでは・・・』 『あっ、大丈夫です』 思わず言ってしまった。 あぁ、、、。 『さようですか。安心致しました。それでは後ほど』 そう言って軽い足取りで出て行った。 ぶっ。せっかく休めるとこだったのにね。 『うるさいよ!』 ほんと、いつの時代もタッキーは頑張り屋さんだね。 『ま〜ね。ってさっきから俺の事、タッキーって・・・何で?』 だって、僕は天使だもん!アハハー! 『あのさ〜。笑ってないで少しは教えてくれよ。頼むから』 分かったよ。ちょっとだけだよ。あのね・・・。 そう言って教えてくれた。 朱果は俺が生まれてから、ずっと一緒に居て全ての事を見ていた。 天使と言うか守護霊なのかな? この時代に来た理由は教えてくれなかったけど “ちゃんと意味が有る事だから”と言っていた。 一体、どんな理由が有るんだろう? 俺には、この先どんな事が待っているんだろう? その日は朱果の助言で何とか仕事をまっとうする事が出来た。 『あのさ。宮中だっけ?今日、俺が行った所』 うん。そうだよ。 『偉そうな人が沢山居て、ビックリしたよ。しかも、俺に敬語使ってぺこぺこしてんの』 当たり前だよ。だって明秀さまは東宮(とうぐう)なんだもん。 あっ!東宮って言うのは未来の帝(みかど)の事だよ。 あっ!帝って言うのは、つまり天皇陛下だね。 『へ〜。って・・・えーっ!!嘘!嘘だろ?まじかよ〜』 まじだよ。だから、これから頑張ってね。勉強を。 『べっ、勉強って・・・。あっ!朱果が居てくれるからいいじゃん!』 ダメだよ。僕がずっと一緒に居れるとは限らないし。 『えっ?そうなのか?あぁ、、、。頭痛てぇ〜』 それから毎晩、朱果に教えてもらった。 仕事(政=まつりごと)の事だけじゃなく色んな事を。 例えば・・・すだれみたいな物の事を御簾(みす)と言い、 今、着ている服装にも種類や段階が有るという事等。 平安時代のルールを学んだというより叩き込んで1ヵ月程経ったある日。 いつもの様に朱果がやって来た。 さすがはタッキーだね。 『当たり前じゃん!もう何でも来い!って感じ?』 じゃぁ、今夜はもう1つの重大な事を・・・。 『えっ?まだ有んの?しかも・・・重大な事?』 うん。実は・・・タッキーが1番苦手な事なんだよね。大丈夫かな? そう言って教えてくれた。 『うっ、げっ!まじ?』 どうやら、明秀は女性関係がお盛んだったようで・・・。 その処理(!?)を俺にしろって・・・。 頑張ってね!じゃぁ! そう言うと朱果は消えて行った。 あぁ〜。 『時徒。あのさ・・・。その・・・。えっと・・・』 俺は、その事が言えず焦っていた。 すると時徒さんはアッサリ言った。 『若君!もしや・・・姫君の所に通われる気になったのでございますか?』 『あっ、そう、そう言う事です』 『良かったぁ〜。と喜ぶべきなのか落ち込むべきなのでしょうか? まっ、とにかく、その気になってという事は・・・もしや記憶がっ!!』 『あっ、何とな〜くね。思い出したような感じがして』 嘘をついてしまった。 『嬉しゅうございます。うぅぅぅ。では早速、御歌を』 『えっ?歌を歌うの?ここで?何の歌?』 『姫君に贈る和歌でございますよ。やはり記憶が・・・』 『まっ、そう焦らないで。ねっ!』 そう言うとギロっと睨まれた。恐いな〜(^^; そう言えばマネージャーの時田さんにも時々睨まれたっけ。 俺が呑気にしてると。 その事を思い出し笑っていた。 『若君!若君!しっかりなさって下さいませ』 『あっ、すみません。えっと・・・でっ、どうすればいいの?』 『そこに置いて有る紙に書いて下さいませ』 『えっ?もしかして・・・自分で考えるの?』 『あ、当たり前でございます!』 そんな怒らなくたって・・・。 『出来上がったらお呼び下さいませ。では、失礼致します』 そう言って出て行った。 自分で考えろって言ったって・・・そんなの分かんないよ。 筆を手に取り白い紙を眺めたけど和歌なんて出て来ない。 出て来るはずが無い。 俺は途方に暮れ、大きな溜息をついた。 溜息ついてると幸せ逃げちゃうよ。 『あっ、朱果!いい所に来た。あのさ・・ってもう知ってるよな?』 うん。当分の間、僕が考えてあげるよ。 『ありがとう!!』 〜木の間より洩り来る月のかげ見れば 心尽くしの秋は来にけり〜 (木洩れの月の光…ああ心ざわめく秋が来たんだ) 『へ〜。どう言う意味?』 つまり・・・病気をしている間、寂しかった。 こうして元気になって、真っ先にあなたの事を思い出した。 人恋しくなったんです。っていう意味だよ。 『うえぇ〜。なんか恥かしいよ』 さっ、時徒が待ってるよ。早くしないと。 『・・う、うん』 『若君!お出来になられましたか?』 『はい』 張り切って返事をした。 そして出来たてホヤホヤの和歌を見せた。 『字は・・・・・・ですが!歌は立派でございます。では、参りましょう』 『えっ?どこに?』 『何をとぼけて・・。あっ、記憶が無いのでございましたな。失礼。 えっと、わたくしの判断から申しまして・・・月ですから 右大臣の一の宮「輝夜月(てるよつき)」様かと思われます』 『そっか。じゃぁ、行きましょう』 そうして牛車に乗り夜道を急いだ。 ―つづく―
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