笑顔の行方 V____
第3章 |
2001年2月 しいな 作 |
「滝沢くーーん!」 週5日のドラマロケを終えて今日から2日間はそれ以外のTVの仕事、雑誌の仕事をこなすオレ。 毎日すごく忙しい。 そんなとき、山Pこと山下智久が声をかけてきた。 「おう!いつもメールサンキュ!」 「うん。あっそれとこれ!聞いてみたけどすんごく良いよー。」 日向さんから預かったという例のMDを渡してくれた。 「ああ・・サンキュ。元気だった?日向さん。」 オレは、山Pにひそひそと小さい声でそう聞いた。 「うん・・元気といえば・・元気だったけど。」 思わせぶりにそんなことを言う。 「けど・・なんだよ。」 そんな言い方されると気になるじゃないかよ。 「男の人と一緒だった。」 言っちゃっていいのかなぁといった感じでそう答えた。 「まっ・・マジで?どっ・・どんな人だった?」 オレは内心穏やかじゃない。 思わず・・カミカミになってしまう。 「なんか・・スーツをビシッと着こなしてて・・ビジネスマンって感じかな。 メガネを掛けてるんだけど爽やかなスポーツマンタイプかなぁ?」 山Pは一言で言うと好青年≠ニ付け加えた。 「何かさぁ・・お昼食べたって言ってた、滝沢くん?」 「お・・おう・・。あんがとな。」 嘘っ!もしかして・・例の合コンの相手? 山Pがいる手前、平静を装っているオレ。内心は不安でいっぱいだ。 仕事のことに関してはガーーッて行くオレだけど・・。 日向さんのこととなると・・ダメだ。 ああっ・・気になるっ。 すっげー、気になってしょうがない。 「オレ・・日向さんって滝沢くんが好きだと思ったんだけどなぁ・・。」 「えっ!?」 「だって、何度か会ってるけど明らかに翼くんやオレを見る目と滝沢くんへの視線は全然違うよ。」 なんて・・オレを励ましてくれてるのか? うれしい事いってくれるじゃないかよ!っと思わず山Pに飛びついて抱きしめる。 「いくら、パパでもそれだけは勘弁してっ。」 「だって、お前ってば嬉しいこと言ってくれるから・・つい。」 と笑い出すオレ達。 そのあと山Pは逃げ出したけど・・。(当たり前だっつーの。笑) それにしても・・どんな相手か気になる。 見たい・・その好青年。 大人の男。 オレは近くに置いてあるゴムチューブで身体を鍛え始めた。
※
この数時間の冷え込みと不規則な生活がつづき風邪気味の私。 でも・・今、大事な時期だし仕事も休んでられない。 栄養剤とビタミン剤で乗り切ってやる!と思いつつ仕事に励む私。 そんな私にメールが一本。 マナーモードが作動する。 『仕事、何時に終わる? ヒデ』 あっ・・久しぶりだぁ。 私はウキウキしつつ、辺りを見回す。 時間は夕方。 悲しいかなまだ全然終わりそうもない。 『今日も遅くなると思う。今日中は帰れないよ。』 と携帯を握り隠れながらメールを打つ。 『 じゃぁ・・一時間くらい時間取れる?飯食べに行こう。』 ちょうど・・早い夕飯の時間だなー。 『O・K!場所は?』 『 いつものところ。』 私たちは待ち合わせの時間を決めていつも皆で行くイタリアンのお店に行くことになった。 私は「ご飯行ってきまーす。」と会社を抜け出してきた。 そのとき・・再び携帯が震える。 番号は・・。 三浦くんだった。 「もしもし?」 出ると、 「三浦です。ご飯食べた?今日は良いもん食べようよ。」と言う。 「ごめん。先約があるんだ。また今度ね。」 そう言って切った。 今度があるかどうか・・疑問だけど・・。 待ち合わせの時間にお店に急いで行く。 その時間は結構混んでいて若い女の子がたくさんいる。 私は店内に入っていつもの席に向かっていく。 大丈夫かな?パニックにならないかな? いつも割と空いてる時間に来るから、そんなことにもならなかったけど・・。 窓際の奥まった場所。 ニット帽をかぶり黒のジャンバーに皮パン。 胸元から光るネックレスは翼くんとお揃い。 指にはいつものアガットのクロスリング。 そして、薄い色のサングラスを掛けている。 「お待たせ・・元気してた?さすがに混んでるねー。」 私が上着を脱いで彼の前に座る。 「うん、久しぶり。」 にっこりと微笑む。 回りの女の子達はは気づいていない。 案外普通にしてたらそんなもんかな? でも私だったら気づくな。 すぐわかると思う。 さっそくウエイターが来てオーダーを取っていく。 彼はいつものペペロンチーニで私はクリーム系のパスタとサラダ。 「良く時間取れたね。びっくりしちゃった。」 私は嬉しい気持ちを抑えつつそう聞いた。 「うん。今は仕事と仕事の合間なんだ。少しだけ時間もらった。」 私を見てにこっとエクボを見せる。 サングラス越しのきれいな瞳は見えにくいけど・・すごく優しさが伝わってくる。 「MD、ありがと。すごく良かった。山下も良いって言ってた。」 「そうなんだー。良かった。気に入ってくれて・・。」 やがて、料理が運ばれてくる。 私と彼はパスタを食べながら話が弾む。 ドラマで海でのシーンがすごく寒かったとか、楽しそうに話してくれる。 ひとしきり喋って食べ終わると、私はバッグから風邪薬を取り出して飲む。 「何?どっか具合悪いの?」 秀くんが心配そうに私を見つめる。 「うん、風邪気味なの。でも大したことないから大丈夫。」 そっ!秀くんに会えたしね。 現金なもので会えただけでさっきの具合の悪さも吹っ飛んだみたい。 やっぱり・・あなたは私の栄養剤&ビタミン剤だよ。 なんて心の中でつぶやいた。 ふと・・後ろの方から囁く声が聞こえる。 「タッキーだよね・・。」 「カッコイイ!・・相手の女の人誰かな?」 あっと・・まずいなぁ。 気づかれてる。 店中のお客さんにバレる前に出ないと行けないな・・。 ああ・・この至福の時間が終わってしまうなんて・・。 しょんぼり。 「ヤバイね・・。」と彼もニガ笑い。 本当は知ってるんだ。 帽子もサングラスもはずしていたいはずだけど。 お店に迷惑かけちゃいけないって考えてる。 いつも回りのこと気遣う秀くん。 そんなところも私は好き。 すごく誇らしく思ってる。 ふと・・入り口の自動ドアの開く音が聞こえる。 「いらっしゃいませ!」とウェイターやウエイトレスの声が聞こえる。 「行こっか?」 と秀くんが言った途端、私に影がかかる。 見上げると・・。 「みっ・・三浦くん!!」 思わずすっとんきょうな声を出しそうになるのを抑えて低い声で言った。 スーツを来た・・およそこの店内にはあんまり似つかわしくないサラリーマン。 なっ・・なんでここにいるのっ!? 私は水槽で泳いでる金魚のように口をぱくぱくさせていた。 全身の毛穴という毛穴から一気に汗が噴き出してくる。 うっ・・心臓に悪い。 秀くんは、私の顔を見て「何?」と訴えている。 「いやぁ・・。気づいてなかった?2人の後つけてたんだよ。」 私の隣に座って・・運ばれてきた水を飲み干す。 あんたは、ストーカーかっ?と突っ込みをいれたくなった。 「あのう?オレ・・話が見えないんだけど・・。」 秀くんは戸惑ったように私と三浦くんを交互に見つめる。 「滝沢くんだよね。」 三浦くんは彼にそう尋ねた。 秀くんは「はぁ・・そうですけど?」怪訝そうに答える。 「はじめまして、三浦一大というもんです。 一応・・彼女ね小沢さんにおつき合いして欲しいと言ってる男です。」 声が大きいのか・・店内がざわめき出す。 「一応宣戦布告ってことで。君はどうなの?彼女のこと・・どう思ってるの?」 三浦くんは自信たっぷりに彼に問いただす。 私は、はらはら・・どきどきしながら秀くんを見つめる。 その一方で・・顔見知りのウェイターさんを探す。 「お・・オレは・・。」 こ・・こんなところで言っちゃだめっ。 私は・・ウエイターを呼び止めて「裏口・・使わせて下さい。」とお願いする。 「オレは・・。」 好きか嫌いかなんて・・なんで三浦くんが聞くわけっ。 秀くんも突然の質問にパニクっていた。 ふと・・三浦くんが立ち上がって彼の近くに行く。 「こっちは、正々堂々と話してるんだから・・。君もそんなものはずせよ。」 ああっ・・だめっ!と叫ぼうとしたその時、無情にも三浦くんの手が秀くんの帽 子とサングラスに手を掛けて・・はぎ取ったのだ。。 彼の美しい素顔が現れた。 一瞬注目していた客達が息を呑むその途端・・店内が黄色い悲鳴が飛び交う。 「きゃぁーーっ。」 「タッキーー!!」 「滝沢くーーん。」 女の子達は、彼を一目みようとせまってくる。 周りの子達にも、もみくちゃだった。 「日向さん・・オレっ・・。」 彼は私を見てどうしたらいいのか迷ってる。 「ごめんねー。私の事はいいから・・とにかく行って!」 ウエイターさんが素早く対応してくれて裏口から彼を出してくれた。 私と三浦くんもやっとのことで店を出てこられた。 あの店は彼が良く行くお店ってことで有名だったから、秀くんファンがいても おかしくない。 「小沢さん。これって一体どうゆうこと?」 三浦くんは、息をきらしながら、そう聞いてきた。 芸能界に疎い彼はこの状況を全く把握出来てないようだった。 「電話したとき・・すごく声のトーンがいつもと違ったから気になって・・後をつけたんだ。 悪いことしたと思ってる。でも・・まさかこんなことになるなんて想像してなかった。 彼って・・何者?」 呆然というか・・大変なことをしたと感じてるみたい。 「滝沢くん・・滝沢秀明くん。知ってる?」 「さっきの?知らないよ・・何で?」 その言葉を聞いて、あるお店のショウウインドウに飾られているポスターを指さす。 それは、某大手有名化粧品メーカーの女性向けシャンプーのものだった。 彼が映っている。 「えっ!?じゃぁ・・。」 それですべてを悟ったようだった。 黙ってしまった。 「じゃ・・。私・・仕事に戻るから。」 三浦くんと別れて・・私は、シャカシャカと早送りしたように歩く。 秀くんの顔を思い出す。 すごく不安そうな表情、いつもの彼にはない複雑なものが見えたような気がした。 上手く・・逃げ切れたかな。 なんて・・答えようとしたんだろう。 でも・・嫌われたかな? 三浦くんと会ってること言ってなかったし。 すっごく胸が苦しい。 涙も溢れてくる。 仕事に戻った私を上司やスタッフは、腫れ物をさわるように接していた。 いつもより優しく声を掛けたりしてくれてる。 また・・しばらく彼には会えない日々が続く。 でも・・あんな事があったんじゃ・・・。 もう、会ってくれないかもしれない。 ―つづく―
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