笑顔の行方 V____
第1章 |
2001年2月 しいな 作 |
「っくしゅん・・。」 スタジオ中に私のくしゃみの音が響きわたる。(かなり大きく。) 風邪が・・悪化してしまったようだ。 近くにあったテッシュで鼻をかんだ。 すると、周りからくすくすと笑い声が聞こえる。 上司が、私の所にやってくる。 ああ・・言われることは決まってる。 「まったく、こんな忙しい時期に・・風邪なんぞひきやがって。仕事も進まない みたいだな。 ミスも多いぞ。ったく、もういいから帰れ。」 と呆れ顔でため息混じりにそう言われる。 時間はpm11:00。 今日は、アーティストのレコーディングの作業中だった。 こんな下っ端な私でも猫の手も借りたいくらいの手くらいは必要とされているん だけど。 「明日の事もあるからね。早く帰ってしっかり休みな。もし、調子悪かったら 無理して出てこなくてもいいから。」 と先輩が言ってくれる。 「ずみまぜーん。」 鼻声の私は謝って仕事場を後にした。 この冬一番の寒さ、早く帰って休まないとな・・とぼとぼと歩き出す。 この風邪の原因はわかってる。 この数週間の出来事が、身体に疲労をもたらした んだと 思う。 おまけにこの雪と寒さが追い打ちをかける。 すると、車に乗り込む前にメールが来る。 日向さん、元気? 翼くんこと今井翼くんだった。 滝沢が元気ないんだけど・・何かあった? その名前が出ると、胸がとくん・・と脈打つ。 その次には 今日集まれる? 何も聞いてないのか翼くんのメールは、そこで終わっていた。 私は、車に乗り込んでエンジンを掛ける。 後には、Tubasaとサインがある。 元気がないか・・。 会って・・謝りたいけど。私は自然とため息が出る。 こんな状態じゃ無理だよね。 風邪ひいて・・熱っぽいから・・やめておく・・ごめんね。 と打って送信する。 私は、具合が悪いながらも運転をこなし、何とか無事にアパートの駐車場まで たどり着く。 さっきよりも・・悪化したような気がする。 家まで少し歩かないとならない。 車から降りると・・かなりフラフラだ。 私は、辛くてしゃがみ込んで車に寄りかかる。 秀くん・・。 そう心で叫んだあと・・私の意識が遠のいていった。
※ 話は数週間前に遡る。 この日は、滝沢くんと翼くんが初めて家に遊びに来てい た。 「あのさー。」 滝沢くんこと滝沢秀明くん18才。 ジャニーズJrというアイドル集団のリーダ ー格。 タッキーと呼ばれる人気者。 最近では俳優としても注目されていて、下は小さい子供からおばあちゃんにまで愛されている。 そして・・私の大好きな人。 片思いだけど。 そんな彼が、私と翼くんにそう声を掛けてきた。 今井翼くん、翼の愛称でジャニーズJrの同じくリーダー格。 ダンスはピカイチ 。 アーモンドの形の瞳が綺麗。 滝沢くんとは親友で相棒、大の仲良し。 2人は光と影。 太陽と月みたいな存在。 そんな2人とあることがきっかけで仲良くなった私こと小沢日向は翼くんと同時 に、 「何?」と振り向く。 私たちはゲームに没頭していたのだ。 「何だよ。そんなとこまで仲良くなくっていいのに・・。」 とぶつぶつ言ってる。 「どうしたの?滝沢くん。」 私がPS2のコントローラーを翼くんに渡した。 「そうっ!それ!」 そう!それ?≠サれって何?と思いつつ辺りを見回す。 それとは・・一体なんぞや?と首を傾げて再び彼に目を向ける。 久しぶりに会った彼は髪も伸びていてストレート。 黒髪が白い肌に合っている。 泣きぼくろも相変わらずのポイントで視線を合わせ るたびにドキドキする。 「ずっと・・思ってたんだけどさ。翼が翼くんで何でオレのことは苗字なの?」 私に真剣に聞いてくる。 そんな真剣な表情が可笑しくてちょっと吹き出す。 「笑うなーー。何で笑うの?!」 と聞かれましても?はて?何でだろう。 「何でかなー?言いやすいからじゃない?今井くんって言いづらいもん。」 すると、じーーっっと射抜くように見つめられる。 思わずドキンとしたりして・・。 だって格好いいから。 「何?名前で呼んで欲しいの?」 思いっきり首を振ってうなずく彼。 格好良いが、一転して可愛い。 (怒るかな? ) 子犬を触るように撫でたい気分。 (君はきっと嫌がるよね。) 「でもさ・・。なんか・・今更ねぇ。」 何か・・照れる。 そういうと、またじっと熱い視線を投げかける。 (そう思って るのは私だけかもしれないけど・・。) この瞳に弱いんだよなぁ。 「翼くんは、滝沢っ!だよね。」 彼を見ると「そうだよ。」とゲームをやりながら答えてる。 「他は?何て呼ばれてるの?」 「ヒデかなー?友達の父さんにも呼ばれてる。」 と思い起こすように私に言った。 「ふーーん。じゃ、秀くんとか?」 彼は固まったようにじっとまた私を見る。 その視線に内心ドキドキしつつ「どう?」と秀くんを見る。 「あ・・うん。それでいい。自然だし。」 あれ?何となくほんのりピンク色。 熱いのかな・・それとも・・。 「暑いの?部屋の温度下げようか?」と聞いてみる。 「だっ大丈夫。そうかも。オレ暖房もつけないから。」 と手で扇ぐようなマネをする。 すると、TVに向かってゲームをしてる翼くんが 、 「ぶはっ!」と吹き出す。 滝沢・・いや秀くんはそんな翼くんの頭をベチッと叩く。 (痛そう・・。) 「そっ・・そうだよね。君って暑がりだもんね。」 私はちょっとドキドキしながらそう言う。 (さっきからだけど。) 言い慣れてないから、何か変な気分。 でも、また彼に近づけたようで嬉しい。 またも翼くんは笑い出す。 さっきの吹き出すんじゃなくて「わはは。」と笑って る。 すると、秀くんはプロレス技を掛けてる。 相変わらず仲良いなぁ。 (何て技だろ ?) 今日初めて、家に来たんだけど、秀くんはドラマロケと他の仕事も忙しいのに 2人で時間を合わせて遊びに来てくれた。 あれから、秀くんと私の仲は進展がない。 いっそ・・告白出来たらいいけど・・そんなことは出来る筈もなく。 勇気もないから・・だらだらと毎日を送っている。 その日は、また朝から仕事ってことで、2時くらいまで家にいて私の愛車で 秀くんの家に送っていった。 「じゃ、また今度ね。」 私は2人に車の窓からそう手を振る。 「あの・・日向さん・・。」 秀くんがそう声を掛けて窓を覗き込む。 「ん?今度は何かな?」 覗き込んでる彼を見る。 ドラマで見るせつなげで憂いを含んでいる表情のような気がするのは、私の勘違 い? 「あ・・うん・・。また・・時間出来たら・・。」 何か言いたそうだけど・・言ったあとはにかむように笑った。 「そうだね。また、連絡ちょうだい。そうそう、ドライブもまだ実現してないね 。 今度会うまで運転技術磨いておいてよ?」 ふざけてそう言ったあと・・さりげなくウインクする。 あ・・でも両目瞑ったか も。 「なっ・・そっそんな暇あるわけないじゃん!!」 妙にテンション高めな彼を隣で翼くんがにこにこと優しい瞳で見守ってる。 私は再び2人に手を振ってその場を後にした。 そう・・この時・・あんなことが起きるなんて思ってもみなかった。 ―つづく―
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