笑顔の行方 U____
最終章 |
2001年1月 しいな 作 |
少しうとうとしたと思ってたら・・10分くらい眠ってたかもしれない。 アナウンスの声で気がつく。 ふと・・すぐ隣の人にもたれていたみたい。 足下を見るとラバーソウルっていうのかな?スニーカー? そして、あんまりきれいじゃないジーンズ。 「あっ・・すみません!!」 慌てて頭を下げて謝る。 「いーえ、どういたしまして!」 びくーーん!!私は飛び上がってびっくりする。 その声は、聞き覚えのある低めのハスキーボイスだった。 本人は仰け反って笑ってる。 私のリアクションがそんなに可笑しかったのか・・。 手まで叩いてる。 その笑顔が可愛くて・・。さらにWパンチ。 「うっす!滝沢参上ってことで!まーた眠っちゃってるし。」 彼はいたずらっぽく私を見つめる。 「いつから居たのー?起こしてくれればいいのに!」 私は突然の滝沢くんの登場で動揺している。 「よく寝てたからさ。起こしちゃ悪いかなと思ってさ・・。」 キャップのつばを後ろに回して被り直してる。 何だか彼は嬉しそう。 どうしてかな・・? 「ところでさ・・。今日は珍しいよね。」 滝沢くんが私を見てそんなことをいう。 首を傾けていると、またもニコッと微笑む。 「化粧もしてるし、何か雑誌のモデルみたいじゃん。どっか行ってきたの?」 雑誌のモデルは言いすぎっ!でも、少しいい気分。 なーんて、言うつもりなかったのにペラペラ口を滑らしてしまった。 「合コンだったの。5対5でね・・。」 「合コンかぁ。それでか・・。日向さんもそういうの参加するんだ・・。」 今度は少し元気がない。 ころころと表情が変わるなぁ。 「友達に強引に誘われてね・・。断りきれなくて・・。」 なんて、良いわけしてみる。 滝沢くんの反応を伺っていると、彼はふと、伏し目がちに寂しい表情になる。 「実はー、ロケ中に日向さんをカラオケBOXの前で見たんだよね。」 えっ?見られてた? もしかして・・三浦くんと2人きりのところ?(汗) 「何かさー。いつもと違うから・・誰か一瞬わかんなかった。」 脚を組んで膝の上に手を載せている。 左手にはいつものクロスリング。 「そ・・そんなに変わってる?化粧・・厚すぎかな・・?」 少しそんな切なげな彼を見て耐えきれず思わず茶化して言ってしまう。 いやぁ・・2人きりで話すのってドキドキする。 だって、いつも翼くんが一緒だったから。 「ちぇっ・・。真剣に言ってるのに・・。」 し・・真剣って・・? 私はじーっと彼を見る。 「あのさ・・。男の人と一緒じゃなかった?合コンで知り合った人?」 さらに、どきーーん!!私の声がうら返る。 「携帯から・・声が聞こえたから・・。」 ボソボソと喋ってる。 「中学の時同じクラスメイトだった人。偶然、合コンに参加してたの。」 「ふーん。それだけ?」 私の瞳を見る。 吸い込まれそう。 とりあえず頷く。 「ほんとに?」とまだ信用してないみたい。 今日の滝沢くんは・・変だなぁ。 「あっ!そうだ。本当は、機材借りようとおもってて、君ん家に行こうとしたん だけど・・。」 話題のすり替えでバッグからMDを取り出す。 「なのに、こっちの方向に乗っちゃったんだ。日向さんらしいね。」 くすくすと笑ってる。 あれ・・? 今なんか思いついたのに・・忘れちゃった。 喉から出かかってるのに・・。 あれぇ? 「今から来れば?」 突然そんなことを言う。 「え・・でも・・もう遅いよ?明日も早いんでしょ?」 「オレは、構わないよ。」 そうはっきりと私に向かって言った。 ちょっと待ってっ・・。 また・・あの部屋に行くと思い出してしまう。 あの時のこと。 2人きりなら尚更なわけで・・。 何度か機材を借りに行ったときは、滝沢くんがいないから集中できたけど・・。 「オレん家で2人きりになるの・・嫌なの?」 「えっ・・嫌じゃないよ・・。」 私は、胸がくるしい。 まともに彼の顔を見れない。 そんな時、終点にもうすぐ着くというアナウンスが流れる。 「ごめん。別に困らせたいわけじゃないから・・。」 静かに彼は言う。 私は何にも言えない。 翔子と三浦くんが言ってたこと、当たってる。 私は滝沢くんのことが好き。 でも・・失恋のせいか少し臆病になっているのかも知れない。 ふたりきりであの部屋にいたら・・。 おかしくなってしまうかもしれない。 私は横顔を見つめる。 それだけで・・どきどきする。 滝沢くんは・・私のことどう思ってる? そんなことを思っているうちに終点につく。 私と彼は電車を降りる。 少し風を感じる。 雨も降ってる。 彼の髪がなびいてる。 寒そうに肩をすくめてる。 「ああ・・電車ないよ?どうするの?」 「タクシー拾って帰る。でも、日向さんを送ってからね。」 優しく私に言ってくれる。 なんだか・・彼と私の関係は変わりつつあるみたい。 って私だけかもしれないけど・・。 家まで15分・・。 ゆっくりとした歩調で並んで歩く。 その間はドラマのこととか、ロケで危うく海に落ちそうになったとか彼が話してる。 「あ・・すぐそこだから・・。ここで・・。」 私がそう言うと「そうなんだ・・。」と少し残念そう。 「ありがと・・。また、遊びに行くから。」 「うん。」と頷いてにこっと笑う。 「オレも連絡する。今度ドライブ行こうよ。免許とったからさ。」 私も「うん。」と答える。 「じゃ!」と手を振って帰っていく。 両手をジーンズのポケットに手を入れながらゆっくりと歩いてる。 その背中を見送っていると・・。 私はあることを思い出す。 急いで、バッグから携帯を取り出して、滝沢くんの携帯にTELする。 もう、小さくなって離れてる後ろ姿の滝沢くんが耳に携帯をあててる。 振り向いて歩くのをやめる。 『日向さん?どしたの?』 『聞きたいことがあって・・。どうして・・こっち方面の電車に乗ったの? 逆方向でしょ?』 すると、彼は携帯を切ってポケットに入れる。 「会いたかったからだよっ!!」 とご近所中に響きわたる大声でそう叫んだ。 そして、両手を振って走って帰っていった。 携帯片手に立ちすくむ私・・。 それって・・私に会いたかったって事? 思わずうずくまる私・・。 期待しちゃっていいのかな? そうこうしているうちに、近所の犬達が一斉に吠え出した。 「うるさいわよっ!遅いのになにやってんのよっ。」 おばさんの怒号が聞こえる。 まずーい。 私は慌ててその場を走って逃げる。 だけど、足取りも軽く、スキップをする私。 空を見上げると・・珍しく・・星が見える。 郊外だからかな・・。 「滝沢くんと・・手をつないで歩きたいなぁ・・。」 そう思いながら、歩く。 その時・・キラッと光るものが流れる。 「流れ星?」 そのあと、2,3個・・流れていく・・。 私は立ち止まって願い事をした。 「滝沢くんと・・。」 制限時間・・間に合ったかな? 願い事がかないますように・・。 そう思いながら、家に入る私だった。 ―完―
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