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君を守りたい 第1章
stay with me
2000年12月
しいな 作


「お疲れさまでしたー!」
元気な明るい声が響く。
月刊のアイドル雑誌の撮影現場だ。
スタッフ達は彼に「お疲れー」とか「ごくろうさまー」なんて声を掛けてる。
私も何回も彼と仕事をしているので「お疲れ様」と冷えた麦茶を渡す。
「あ、カンナさん。ありがとう。」
満開の笑顔。うわぁ・・どきどきする。
「滝沢くん、髪伸びたね・・。大人っぽくなったんじゃない?」
私は心臓をバクバクさせながら、自然にサラッと言ってみる。
「そうスか?俺あんま鏡見ないからなぁ。
でも、顔は変わったって言われるかな?」
前髪を上目づかいに見ながら、指で摘んでいる。
「あ・・そうだ。このTシャツとパンツ、ジャケットって買い取り出来ますか? 」
彼は麦茶をぐいって一気に飲み干したあと、そう私に声を掛ける。
「ああ、いいよん。やっぱねぇ、似合うと思ったんだー。さすがお目が高い。」
とおどけると、彼はのけぞり笑う。
「カンナさんておもしろいよね。
今度さ、スタッフさんとご飯行こうって言ってたんだ。その時誘ってもいい?」
しばし、目がテン。
「ダメ?」と彼は聞いてくる。
「私なんて一緒でいいのぉ?ちっともおもしろくないと思うけど。」
「もちろん。あ、じゃあさ誰か連れてきて欲しいJr.とかいる?俺がんばっちゃ うよ。」
そんな、君だけで十分だよ。という言葉を飲み込み笑ってしまう。
「連絡するのどーしたらいいかな?」
「みんな、私の携帯の番号ぐらい知ってるから誰かに言ってくれれば回ってくる よ。」
私は単純にそう答える。
「ふーん。そーなんだ。」
少し声のトーンが落ちる。なんで?
「それとも・・名刺いる?」
そう、聞くと彼はいきなり声のボリュームを上げる。
「いる!下さい!!」
ああ、こんなところはまだ18歳だなぁ。
私は笑って簡単なプライベート用じゃなくて仕事用の名刺を渡す。
「あ、それじゃあ今お金持って来ますから。」
そう、彼は言って走っていった。
私はべつのJr.の衣装を確認しつつ、少しウキウキしていた。
お誘いがあるかも。スタッフの1人としてだけでも嬉しい。
そう、私は何気に滝沢秀明くんの事が好き。
でも年上だし、なんたって彼は人気者のアイドル。
どーあがいたってアウトオブ眼中って奴だよね。
彼はその数分後衣装を脱いでやって来た。
そしてお金を貰って衣装を確認して渡した。
「また、いいのあったらお願いします。」
「うん、OK。」
彼は笑顔でその場を去って行った。
私は気持ちを切り替えて次の撮影の準備をした。
                    

「名刺もらった。」
某TV局でオレは横山裕ことヨコに彼女から名刺を貰ったことを話した。
「うそっ。マジ?やったじゃん。」
にやにやしながら肘をつついてくる。
「それがさ、あんま良くないんだよね。
やっぱ年下だからかな?アウトオブ眼中ってやつ?」
「うーん。5歳やろ?微妙やね。でも、カンナさんって見かけより若いんちゃう ?」
オレは頷く。そうなんだ。大人の女性なんだけどかわいいんだよね。
「顔がにやついとるでー。」
名刺を見ながらにやついているオレに向かってヨコはうりうりと肘でつついてく る。
「やっぱり、誘ってみようかな・・当たってくだけろだー。」
「くだけるどころか玉砕したりして。」
「なんだとー、このやろー!!」
オレはヨコにプロレス技をかけまくる。
そこに翼と村上がやって来てあきれながら見ていた。
よし、今度の休みに誘おう!!
                                                           

 あれから、1週間。音沙汰なし。
「からかわれたかな?」
そーなんだよね。滝沢くんなら、相手くらいいっぱいいるだろうし。
あと、忙しいとか・・。お昼ご飯を食べながら考える。
今日のメニューは一応手作り弁当でオムライスとサラダと200ml牛乳パック だ。
公園で頬張っていると・・。
「旨そうっすね。」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。
振り向くと、サングラスをかけ帽子をまぶかに被った彼がいた。

「滝沢くん・・どうしたの?」
ベンチに座っている私の隣に彼が座る。
かなり嬉しくてドキドキしてる。
「うん、なんか撮影してるなって思ったら、ご飯食べてるの見かけてさ。
すぐそこのスタジオで仕事なんだ。」
「ふーん。そうなんだ。」
ふと、彼は私が作ったお弁当を見つめる。
「それってさ。手作り?」
「そう、切りつめてるから、自分で作んないとね。1人暮らしだから大変なの。
」 プラスチックのスプーンでオムライスをすくって食べる。
「おいしい?」
聞かれる。おっ、バカにしたな。結構本格的なんだぞ。
「これでもねー。料理は得意なんだからね。」
なおもじーっと見ている。
「ご飯まだなの?」
「うん・・。これから。」
「食べる?残りだけど・・。」
なんとなくそう言ってしまった。
だけど・・スプーンどうしよう・・って。
「いいの?やった、いただきまーす。」
それ・・スプーン・・私が口つけたやつ・・。
かっ間接キスだよ・・。
どうしようって、たぶんこのときの私の顔は真っ赤っかだったと思う。
心臓はバクバク。
でも、このときの滝沢くんは平然とがつがつと食べ尽くしていた。
3分の2程残っていたお弁当はあっという間にからっぽになっていた。
「うまかったー。全部食べちゃった。」
「美味しかった?なら・・いいけど・・。」
ちぇ、気にしてないみたい。
くすん。いいけどさ・・別に。
でも、そのスプーンは洗わないでとっておこうっと。
「せっかくの弁当、ごめんね。おわびにさ・・ご飯ごちそうしたいんですけど、 夜って空いてる?」
「へっ?」
驚いて、彼の顔を見る。
「もしかして、彼氏とデートとか・・約束とかあったりする?」
少しの間・・。聞かないで欲しいよなぁ。
「今はフリーです。夜は空いてます。もちろん暇です。」
少し強い口調で言ってしまう。
「ごっごめん、じゃ電話するから・・。」
あわてて去って行った。
絶対寂しい女と思われたよ。
ああ、でもこのスプーンだけでも収穫よね。
後でちゃんと保存しようっと。


―つづく―




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