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君を想うとき・・・ 第1章
we can fall in love
2000年10月
海亜 作


『はいOK!!今日もカッコイイわよぉ〜』
『当たり前じゃん!誰がセットしたと思ってるんすかぁ〜』
『ハハハ、そっか。はい!じゃ、撮影頑張ってねぇ〜』
今日も滝沢くんと佳子(けいこ)さんの会話が聞こえる。
佳子さんはジャニーズ事務所のMHSをしている。
MHSとは化粧(メイク)、髪型(ヘアー)、衣装(スタイル)の略称。
仕事の内容は所属タレントの全てをセットする事。スタッフは男女合わせて50人。
その中でもMC班(雑誌、コンサート)とTD班(テレビ、ドラマ)の2つに分かれている。
佳子さんはTD班のリーダー。そしてJr.の滝沢くんの担当をしている。
私はその横でアシスタントとして側に居る。

佳子さんは一から教える事はしない。
目で見て覚えなさい。そして盗みなさい、という感じ。
最初は冷たい人だなぁ〜って思ったけど、優しく手取り足取り教えてもらうよりは、よっぽど勉強になる。

佳子さんと出会ったのは去年の12月。年の瀬も迫る頃だった。
『ともだち』という居酒屋で隣になり意気投合した。
当時、私は幼い頃から、なりたかった美容師の職についていた。
勤めていたのは有名なカリスマ美容師が居る店でこのまま働けば間違い無くカリスマになれたと思う。
でも店の方針が嫌だった。
“お客様は神様”ではなく“お客様は金様”という感じだったから。
いつ辞めようかなぁ・・・そればかり考えていた。
そして3年間付き合っていた彼氏と結婚を目前に別れてしまい、まさに人生をやり直したいと思ってる時だった。

それから何度かその店に足を運んでる内に佳子さんと仲良くなり、
いつからか、私は悩み事を相談するようになっていた。
佳子さんは仕事に対する思いや考えを熱く語ってくれた。
それを聞いてる内に私は今まで悩んでた事がバカバカしく思えてきた。
そして長年勤めていた美容院を2月に辞め、この世界に飛び込んだ。
飛び込んだと言うより佳子さんが道を教えてくれて歩き始めた、という感じ。

MHSという仕事は、芸能人と近づけて楽しい仕事だと思っていたけど、
現実は・・・甘かった。
休みもなかなか与えてもらえず1ヵ月働きっぱなしという事も当たり前。
アシスタントだから給料も当然安い。
なのに・・・何故この世界でやりたい!って思ったんだろう。
佳子さんの話を聞いて興味を持ったから?
ううん。滝沢くんの存在が大きかったからだった。
『魔女の条件』を見た、あの時の衝撃は今でもハッキリ覚えてる。
桜の木の下の・・・美少年。この言葉が似合うのは彼しか居ないと思った。

『倫子(ともこ)ちゃん!急なんだけど明日、今井翼くんの雑誌の担当してくれない?』
『えっ。私が・・・ですかぁ?』
『そうよ。急にMC班の人が足りなくなっちゃって。』
『あっ、はい。頑張りますので宜しくお願いします。』
『はい。いい返事ね。じゃぁ、お願いするわ。』

1人でやるのかぁ。。。
不安な気持ちもあったけど、それ以上に楽しみな気持ちでいっぱいだった。
自分の実力が試させてもらえるんだから。
うふふ。どんな衣装にしよっかなぁ。
髪型は。。。あっ!おでこを出してみようっと。
でも、あの子の前髪長いから久しぶりにハサミ入れてみようかな・・・
私は明日の事を想像して胸躍らせていた。

ガチャ。
ドアが開いた。
『何ニヤニヤしてんの?』
収録を終え滝沢くんが楽屋に戻ってきた。
                               

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