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悲しみが解けるとき 2章 
2002年3月
しいな 作


「えっ?タッキーに会ったの?どこで?」
和ちゃんのママことお義姉さんは、驚きの表情で私を見つめる。
「そこの公園で・・写真を撮ってた。」
「もう一言いってくれればっ飛んでいったのに。」
それって迷惑になってしまうんじゃ・・。
私はうつらうつらと船をこいでいる和ちゃんをそおっと隣の寝室のベビーベットに 運んでいく。
「和ちゃんと遊んでくれたり・・気さくで楽しい子だったな。」
優しい微笑みを思い出す。
戻ってきた私は、お兄ちゃんとお義姉さんにカレーをついであげる。
「和ちゃんったら・・滝沢くんの足に突撃していったんだよ。」
その光景を思い浮かべて笑ってしまう。
「おいおい!迷惑掛けたんじゃないのか?」
お兄ちゃんは、ビールを一口飲んで・・そう私に言った。
「それがね〜。抱いて貰ったんだけど・・すぐ泣きやむし楽だったの。
お義姉さんの教育が浸透しているみたいよ。」
彼女は、サラダを各自の皿に取り分けてる。
「ふふっ!赤ん坊でもタッキーの魅力が分かるのねっ。」
何だかな〜。お兄ちゃんは、しょうがないなって顔してる。
魅力ね〜。確かにそんなファンじゃない私でさえ格好いいなって思ったな。
「どんな格好してた?」
「ん〜と、薄い色のサングラスと迷彩のジャンバーで、下はゆったりした 黒のスウェットだったかな。
そうそう!サンダル履きだった。」
「なんだか・・季節感ないわね・・。」
義姉は、そうつぶやくとスープに手を伸ばす。
確かに・・寒くないのかしら?って思ったけど、彼は終始にこやかだった。
和ちゃんが本当に可愛いみたいだったな。
写真のシャッターを切るときは一瞬真剣な表情に変わったりして ・・
くったくのない笑顔とドキッ!とするほど大人びた表情がくるくる変わる。
さすがに・・見入ってしまったなぁ。
「何ぼぉ〜っとしてんの?さてはっ!ファンになったわね?」
義姉は、カレーのスプーンを振り回してそう聞いてきた。
「さ・・さあ?どうかな。」
おもいっきり誤魔化してる私だった。






「滝沢くん!この赤ちゃん、かぁわぁいい〜!」
年始・・オレん家にみんな集まってバカ騒ぎしてる。
この間の赤ちゃんの写真を見て赤西こと赤西仁がそう可愛く叫ぶ。
「えっ?まさか!滝沢くん・・隠し子?」
その隣で同じJrの山下智久がそうつけくわえる。
「ばかっ・・んなわけね〜だろっ!」
変なこと言うなよな〜。まったく!
確かに・・自分の子供は見てみたいけど。
オレと翼ともうひとりの友人で話しながら2人のお子さまに言い放つ。
「滝沢くん、この女の人誰ですかぁ〜?綺麗な人じゃないっすかぁ。」
赤西は、彼女と赤ちゃんが映っている写真をオレに見せる。
「仁!この人・・赤ちゃんのお母さんじゃね〜の?若いけど・・。」
山下は、赤西の後ろからのぞき込んでる。
その写真を今度は翼が受け取り見る。
「ふぅ〜ん。とうとう写真に・・どっぷりはまったんだな〜。・・にしても・・
なんか・・雰囲気が滝沢が好きそうな感じの人だね。」
翼が意味深にオレを見つめる。・・なんだよ・・物言いたげなその目は!
「えっ?もしかして人妻に恋しちゃったんですか?」
少し舌っ足らずなのんびりした声が響く。声がでかいっての!(笑)
山下も翼も・・みんなオレを見つめる。
「勘違いしないでくれる?その人・・赤ちゃんのお母さんじゃないんだってさ。
・・て何でオレが好きって決めつけんだよ。」
そう・・まだ一度しか会ってないのに。と心の中でつぶやく。
「でもぉ・・滝沢くん・・なんか違いますって!・・な?P?」
と赤西が山下に同意を求めている。
「うん、なんか違いますよ。」
口元をすぼめて山下がオレを見て頷く。
「だぁからぁ!違うっての!」
ちょっとオレはムキになって声を上げてしまう。
怪しいというみんなの視線が全身を駆けめぐる。
「だけど・・会いたいって思ってるっしょ?」
翼の一言は、オレの口を塞ぐのに十分な威力だった。
そ・・そりゃぁ・・ちょっとは・・図星かもしれない。
4人の視線を一身に浴びる。恥ずかしい〜!
「名前・・聞いたんですか?」
「ばっ!初めて会ったのに聞けるわけないでしょっ!」
赤西がワクワクした目つきで聞いてきたからパシッと軽く頭を叩く。
「そりゃぁ・・そうだ。で?ヒデちゃんはどう〜するのかな?」
翼はその光景をにこにこと見ながらオレに聞いてきた。
「どうするって・・どうするよ。まぁ・・ご縁があれば会えるかな・・?」
オレにしては呑気かもね。
でも、また会いたいなとは思ってる。やば・・オレって乗せられやすいのか?
「そうだ!翼くん!車の免許とったんですよね?」
ちょっと・・考え事をしていたら、いきなり赤西が翼にそう聞いてた。
キラキラと瞳を輝かせて奴を見る。
「な・・なんだよ。」
翼は、ビールに口を付けながら嫌そうに赤西をみる。
「今度・・乗せて下さい!」
「やだねったらやだね〜♪ 」
「え〜〜いいじゃないっすかぁ。」
二人のお子さまと大人の仲間入りを果たした男は言い合いをしていた。
微笑ましい光景じゃのう。
その日は、翌朝まで騒いで徹夜になった。
次の日は、朝からお子さまは寝かして置いて3人でTDLに遊びに行った。
寒かったけど天気も良くてふと・・あの公園を思い出した。
また・・行ってみようかな?会えるといいけどなぁ・・。





あれから・・天気も悪くてあの公園には行ってない。
だって、和ちゃんの健康が一番。風邪なんてひいちゃったら大変。
ベビーシッターとしては失格だもんね。
日々成長している和ちゃんとを見ていることだけが生きてる証というか実感だった。
そう・・私の時間は、2年も前に止まってしまった。
それが、動き出したのは・・和ちゃんが生まれて私が世話をするようになってから。
この小さな命が私の気持ちを楽にしてくれる。
寝ている彼女の紅葉のような手を触る。
「さくら〜!」
義姉の声がする。あれ?まだお昼じゃない。どうしたんだろ?
ベビーベットから離れて玄関に向かう。
「どうしたの?まだ早いじゃない。」
義姉は、靴を脱いで居間に入っていく。
「その調子だと忘れてたでしょ?」
カレンダーを指さして逆に聞かれた。
「あっ・・そうだ・・結婚記念日だ。」
そうだった。今日は、兄夫婦の結婚記念日だった。
あれ〜?でも、いつも外食じゃなかったっけ?
「今年は久しぶりに腕を振るうつもりなの。」
・・と大きな買い物袋をテーブルに二つ置いた。
「何だ・・買い物なら私が行ったのに。料理だって・・。」
「いつもまかせきりだから、こんな時くらいはね。主婦の手料理も食べて貰わない と。」
なるほど・・。でも聞いてなかったなぁ。
私は、買い物袋から材料を取り出す。何作るんだろ?
お肉とかも・・塊だ・・。美味しそう。
「和は?寝てるんでしょ?」
すばやく寝室で動きやすい格好に着替えてきた義姉は、ベビーベットを ちらっっと見る。
私は、頷いて、冷蔵庫に買ってきた物を入れてる。
「じゃぁ・・久しぶりに出かけてきたら?」
へっ!?私は、ポカンと彼女を見つめた。
「どしたの?急に。手伝うよ〜。」
するとじっと私を見る。
「ここはいいから・・たまには遊んでおいでよ。」
しかし・・ひとりで出歩くのもちょっと久しぶりだなぁ。
高校の友達も大学の友達も連絡とってないしな。
「ねぇ・・まだ・・忘れられない?」
義姉は、皮むき器を持って人参の皮をむき始める。
私は、途端にある場面を思い出す。
その表情を察してか彼女は、「ごめん・・。」と私の肩を抱く。
「でも、このままじゃ・・だめだと思うよ。和だって小さいままじゃないんだか ら。」
私は、頷く・・その場面を思い出して泣いてしまったのだ。
「仕事するのもいいし、大学にも戻ってもいいんじゃないかな?」
大学は、2年で休学中。
あれから2年たってるけど両親はいつか戻るだろうと 考えていて手続きは続けてくれてるみたい。
「まぁ・・まだ和には・・さくらが必要だけどね。」
といって・・突然・・お財布から福沢諭吉を何枚かくれた。ふっ・・太っ腹!
「臨時ボーナスだよん。さっ・・邪魔邪魔!」
そして・・私は、マンションから放り出された。
今日は、帰ってこなくて良いとも言われてしまった。
さて、トボトボと歩き出す。久しぶりに・・美容院でも行こうか。
私は、駅に向かって歩き出した。


―つづく―




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