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儚き春の光・・・五夜
hikari akihide story
2001年7月
海亜 作


それから輝夜と月を眺めながら色んな話をした。
辺りが白々しくなり、夜が明ける頃。
もうそろそろ帰らないとヤバイんじゃ・・・。
そう思い輝夜に声を掛けようとした。
すると・・・いつの間にか寝ていた。寝息が聞こえる。
俺は、起こさないようにそっと布団へ運び部屋を出た。
すると小さな声が聞こえた。
『今宵はとても楽しゅうございました。生涯忘れません』

俺は返事をせず黙って部屋の戸を閉めた。
心の中で「幸せになって下さい」と言いながら。

帰りの牛車の中で眠りにつきながら色んな事を考えた。
この時代の恋愛は・・・自由じゃなかったんだ。
好きな人が居ても諦めなくちゃダメな事も多かったんだろう。
輝夜の様に。
明秀は何を考えていたんだろう。
俺と同じように心痛める時が有ったのだろうか。

翌日、輝夜の仕えの人が歌を持って来た。


〜ほととぎす夢かうつつか
 朝露のおきて別れし暁のこゑ〜


(朝露の置く朝、起きてあの人と別れた時の
 ほととぎすの一声は夢かうつつか)

『これは、どういう意味なんだ?』
朱果に聞いてみた。
多分「ほととぎす」はタッキーの言った言葉じゃないかな?
ほととぎすは春の鳥でしょ?今は秋なのに変じゃない?
だから深〜い意味で考えると

【早朝、明様が出て行った。
目覚めて昨日の事を思い出した。
明様の言葉は春のように暖かく冬の心を溶かしてくれたような・・・。
でも・・・あれは夢か幻だったのでしょうか?】

みたいな感じ。

『夢じゃないのに・・・どうしてそんな事を?』
女心を分かってないな〜。
あの人は、もう忘れますって言ってるんだよ。
『昨日会った事は夢の中の事。つまり封印してしまうって事?』
そんな感じかな。好きという気持ちもね。
『そっか』

なぜか寂しくなってしまった。
昨日初めて会ったのに、なぜか心が落ち着ける相手だったから。

あぁ、、、もう二度と会えないのか〜。って思ってるでしょ?
『あっ!心読んだなー!』
だって聞こえるんだもん。しょうがないじゃん!
『そういう時は聞こえない振りするもんだろ。ちょっとは気使えよな〜』
分かった、分かったよ。それより、また今夜・・・。
『えっ?まじ〜?また?』
うん。頑張ってね!
えっと・・・今度は敵方、左大臣【蛍の方】だよ。
『まさか・・・。また入内が決まってる人じゃないよな?』
うん。違うよ。女御さま。
『へ〜、って!それって人妻じゃん!しかも・・・敵方なんて』
この方は身分の高い人だから。ちょっと大変かも・・・。
『ちょっとじゃね〜よ〜。あぁ、、、』
まっ、とにかく頑張ってよ。さ!歌を書いて!

そして、今夜も牛車に揺られながら恋の館へ向った。
時徒さんは俺の顔を見てニヤニヤしていた。
『なっ、何ですか?』
『若君が以前書かれた歌を思い出しまして・・つい』
『えっ?どんな歌を書いたのですか?』

〜むらさきのにほへる妹を憎くあらば
  人妻ゆゑに我れ恋ひめやも〜


(美しいあなた。人妻なのに…恋せずにはいられぬ)


『あの・・・それって、どんな意味?』
『若君・・・やはり、まだ記憶が戻られぬようですな。
ですが、蛍の方様にお逢いになれば、きっと思い出されると思います』

結局意味を教えてくれなかった。
よし!直接会って本人に聞いてみよう!
がっ!しかし!蛍の方には会えなかった。
出て来た仕えの人の話によると留守にしてるらしい。
俺は安心したような・・・ガッカリしたような。
なんとも言えない複雑な気分になった。
この気持ちは・・・一体なんなんだ?

屋敷に戻ってからも、このフワフワした気持ちは収まらなかった。
もしかして・・・明秀さまが目覚めようとしてるのかも。
『どっ、どういう事?』
明秀さまは蛍の方の事を凄く好きだったから。
『人妻なのに?』
そうなんだけど・・・。
『あの歌の意味分かってるよな?』
うん。人妻なのに・・・好きで好きでしょうがない。って言う意味。
『蛍の方って、どんな人なんだ?』
教養が有って、優しく綺麗な人だよ。
『そっか・・・』
だから・・・居留守使われちゃったのかも。
『えっ?明秀は嫌われてたのか?』
ううん。その逆だと思う。
『好きって事?じゃ、どうして?』
明秀さまの将来を考えての結論だったと思う。
『身を引いた方が良いと思ったって事?』
うん。頭の良い人だからそうする事が1番だと思ったんだよ。きっと。
『そっか』
もう会っちゃいけない人だよ。左大臣の女御様なんだから。
『そうだよな・・・』
そう言ったけど・・心のどこかで会いたいと願ってる。
俺・・・どうしちゃったんだろう。

―つづく―




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