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笑顔の行方 U____ 第1章
2001年1月
しいな 作


東京も冬を迎えたある日の夜、私こと小沢日向の携帯にメールの着信音が鳴った。
着信音は別にしてあるから、誰からのものかすぐわかる。
見ると案の定、彼からでちょっと頬が緩む。
『 日向さーん!腹減ったー!何か食べさしてー!』
というメッセージ。
どこにいるんだろ?自宅?
『 これから、うちに帰るところ。翼も一緒。』
お腹を空かせた小鳥達が待ってるのね。
・・巣の中でピー×2鳴いてる、男の子2人を思い浮かべて笑ってしまう。
『わかった。支度したらすぐ行くから。』と返信する。
時計を見ると10時過ぎ。
私はまかないさんか?と思いつつ、いそいそと出かける準備をする。
身支度は・・超ラフ。
トレーナーにジーパン。(女っ気なし。)
そして、いざ彼の家へ向かう。
途中、コンビニと開いてるスーパーに寄って地下の駐車場から直結するマンションに向かった。
私の愛車。真っ赤なキャミを止めて、エレベーターを使って彼の家に行く。
部屋の前に立つ。
インターホンを鳴らす。
出て来ないなぁ。
「帰ってないのかな?」
私は、自由に出入りして良いとのお達しで合い鍵をもらっているので、それを鍵穴に差し込む。
開けると暗い。まだ帰ってないみたい。
きれいに整頓された室内。
これは、確信犯かもしれない。
いつも、きれいにはしてるみたいなんだけど・・。ここまできれいだと・・?
まぁ・・機材使わせてもらってるからね・・。
お礼も兼ねていいよね。
私は勝手知ったる何とかで台所を借りて料理を作り始めた。




「たっだいまあっ!!」
2人のお子さま&お腹を空かせた小鳥たちが元気良く帰って来た。
ちょうど料理が出来上がる頃で、タイミングがいいなぁ・・。
「おかえりー!って君たち遅いよ。メール来てから一時間は起ってるじゃないの。」
私が、台所から大声でそう叫ぶ。
「だってなぁ・・。車が渋滞でさ・・なっ翼?」
などと滝沢くんこと滝沢秀明くんは横にいる翼くんこと今井翼くんに向かって言う。
ドラマの役でなのか、久しぶりに会った滝沢くんは黒髪になっていて・・格好いい。
相変わらずの美白で(あの時は灼けてたけど)・・羨ましい!!
翼くんは、益々オシャレさんで・・。
眉も細身で大人っぽくなってる。
「そうでーっす。」
台所から顔を出す私にそう答える。
おもいっきり首を立てに振ってる。
「はいはい・・。」
私は2人をテーブルに促して座らせる。
テーブルに料理を並べていく。
今日のメニューは、和食で肉じゃがとか色々。
小鳥達はがつがつとおかずとごはんをたいらげていく。
おお!釜のご飯もカラになる。
凄まじい食欲だ。
「うまかったー!ごちそうさま。」
・・と2人は仲良く私にお辞儀して拝んでる。
「いーえ、おそまつさまでした。」
私は後かたづけしようと席をたつと、滝沢くんが、
「あ!後かたづけいいよ。」
と言ってくれる。
「後は、オレがやるから・・。いいから、座ってて。」
「うん・・。」
滝沢くんがエプロンを付けて洗い物をする。
鼻歌が聞こえる。
キンキの「愛されるより、愛したい。」だった。
それを聞きながら翼くんはTVを見てる。横に身体が揺れてる。
2人に出会ったのは夏。
二年近くつき合っていて、結婚まで考えてた彼に振られた私が、酔いつぶれて 滝沢くんの家に転がり込んだのがきっかけ。(笑顔の行方参照)
私の仕事の関係のせいか、それから数ヶ月友人としておつき合いさせてもらって る。
「そうだ!日向さんデモテープ聞いてくれた?」
滝沢くんが皿を拭きながら聞いてくる。
「聞いた、聞いた。いいねぇ・・サビのとことか・・。」
私は滝沢くんが作曲したフレーズを口ずさんだ。
某レコード会社勤務で音楽に携わった仕事をしている私。
彼からのデモテープっていうかMDを預かってる。
自分でも曲を作ったりしてるので滝沢くんが自由に使って良いと部屋の合い鍵を 貸してくれたんだけど・・。
(ほとんどスタジオ化してるからね。)
「それ、日向さんアレンジしてよ。あとは、翼が詞を書くだけ。」
滝沢くんは後かたづけを終えてエプロンを外して椅子に座る。
「ふーん。いいの?」
「うん。」とにっこり笑う。彼特有のエクボが出来てる。
私も自然に頬が緩む。
思い返すと失恋の痛みなんてどっかにすっかり飛んでいってしまった。
まだ・・ちょっと恋をするのは遠慮したいけど・・。
2人のおかげかなと思ってる。
特に滝沢くんには感謝してる。
だから、この空間が好き。
3人でわいわいやってるのが今が一番好き。

私はふと時計に目をやる。
もう、12時近かった。
確か滝沢くんはドラマの撮影に入ってるんだよね。
そろそろ帰らないとなぁ。
「滝沢くん、明日・・朝早いんでしょ?」
翼くんの隣で一緒に先輩達のコンサートのビデオを見てる。
「私、帰るねー。翼くんは?もしなんだったら送ってくけど。」
翼くんは、振り向いて私を見る。
「今日は、泊まっていくつもりだったから・・。もう少しゆっくりしていけばいいのに。」
「なぁ?」と翼くんは滝沢くんに言ってる。
私は、カバンを持って身支度する。
と言っても帽子とジャンバーを着るだけなんだけど。
「そっか、まぁ・・徹夜にならないようにね!お肌に悪いよ。」
と言うとゲラゲラ笑ってる。
「もう、帰っちゃうの?オレのことならいいのにさ。気遣い無用 なのに・・。」
滝沢くんが、玄関に向かう私にそう言う。
切なそうに私を見つめる。
うっ!その目に弱いんだって・・。
どきどきする。
「そういうわけには行かないでしょ?じゃ!今度ゆっくりね。」
2人は玄関でお見送りしてくれる。
「そっちこそ、羽目外しすぎないようにね。」
滝沢くんにそう言われる。
あれ以来・・保護者のようだよ。
「事故には、くれぐれも気をつけてよ。結構飛ばすからさ。日向さんって・・。」
と翼くんにまで言われてる。
あのう・・一応社会人なんだけど・・。
「はいはい・・。じゃ、こっちからも連絡するから。」
私はそう言って2人に手を振ってドアをしめる。
そう、こんな時・・実は帰りたくなかったりする。
私が男だったらなぁ。
ずっと・・夜まで語り合うのに・・。(それじゃぁ、何にもなんないか・・。)

―つづく―


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