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マシェリ/ウェイター編 girls side
tea room
2001年12月
しいな 作


閑静な住宅街の一郭に私のお気に入りの喫茶店がある。
コーヒー、紅茶、そしてデザートも絶品。
マスターや奥さんの人柄も良くて居心地がいい。
毎週休みの火曜日に読書片手にお茶をする。
そして、私の楽しみはそれだけではなくて・・。
その日だけアルバイトをしている大学生の男の子に会うのが楽しみ。
カジュアルなスタイルで髪は、長めのボブでストレート。
艶やかで天使の輪が出来ている。
左目の下には印象的な泣きぼくろがある。
きれいな子で元気で笑顔が眩しい。彼の顔を見ると癒されるというか・・
元気が出てくる。

 私は、いつものように・・いつもの時間に喫茶店を訪れた。
すると・・ドアを開けるとハスキーで元気が声が聞こえてくるはずなんだけど。
「いらっしゃいませ!」
落ち着いた初老の男性がカウンターでコップを磨いている。
マスターだった。私は、お辞儀して挨拶する。
え〜と?今日は・・いないのかしら?
いつもなら・・彼の笑顔と元気な声で 迎えてくれるのだけど・・。
きょろきょろと見回してしまう。・・いない・・残念。
私は、いつもの窓際の席に座った。
すると、勢い良く喫茶店のドアが開いた。
「遅れてすみません!」
彼だ・・。そして・・視線が合った。 私を見て にこっ≠ニ笑ったような気がする。
思わず・・視線をはずしてしまった。
ドラマじゃないけど・・。トスッ!≠ニハートの矢が刺さる感覚。
平静を装いつつバックから本を取りだして読み出した。
けど・・ちょっと・・気になったりして・・ちらっと横目でカウンターを見る。
慌てて着替えてきたのかダンガリーのエプロンをしながらやってくる。
服装は、ブルージーンズに長袖シャツ。その上に半袖のデニムシャツ。
カジュアルだけど・・とても良く似合っている。
「いらっしゃいませ!」
メニューを置きにやってくる。
随分急いで走ってきたみたい。後ろに手を組みながら肩で息をしている。
そして・・私に笑い掛けてくる。
「いつものにしようかな・・。え〜と。」
ってメニューを言おうとしたら。
「ホットコーヒーとブルーベリーチーズケーキでしたよね。」
と聞いてくる。え?何故分かるの?・・彼を見つめると。
「いつも・・オーダー貰ってるの・・オレなんで・・。」
そういえば・・そうだったかもしれない。
「それで・・お願いします。あの・・大丈夫?」
逆に私が聞き返えすと「え?」って感じで私を見つめる。
「肩で息してたから・・。」
心なしか・・汗も滲んでいるような気もする。
「だ・・大丈夫っすよ。かっ・・かしこまりました〜。」
透明な肌が徐々に赤くなっていく。カミカミになりながらそう言うと 彼は・・慌てて走って行った。

 しばらくたってトレーにコーヒーとケーキを乗せて持ってくる。
「おまたせしました。ホットコーヒーとブルーベリーチーズケーキです。」
テーブルに丁寧に置いていく。
「ありがとう。」
お辞儀して彼は席を離れていく。
私は、ウキウキしながらそれをフォークで口に運んだ。美味しい。
食べ終わって・・コーヒーを飲みながら本に目を通す。
本に夢中になっていると時間も経つのも忘れてしまう。

どれくらい時間が経ったのだろう・・腕時計を見ると・・もう帰らなければ ならない時間だった。
私は、ぬるくなったコーヒーを飲み干して、席を立ってレジに向かおうとした。
カウンターに目を向ける。
彼は、カウンターに寄りかかりトレーを抱えながら私の方を見ていた。
視線が合った。
彼は、私に気づくとレジの前に慌てていった。
お金を払っておつりを貰う。少し手が触れる。
「有り難うございました。」
極上の笑顔。私も思わず微笑んでしまう。
私は、軽く頭を下げて店を出た。
数メートル歩いた所で私を呼ぶ声がする。
振り向くと彼だった。
「これっ!忘れ物。お客さんのですよね。」
彼が持っていたのは・・さっきまで読んでいた本だった。
私の名前入りカバー付き。
「どうも・・有り難う。あ・・名前・・聞いてなかったですよね。」
「あっ・・滝沢・・滝沢秀明です。」
彼は、すかさず・・そう答えた。
そうだ・・確か・・マスターや一緒に働いている子にもそう呼ばれていた。
「じゃ・・また。バイト頑張ってね。」
彼は、「ども!」と笑ってそのまま走って喫茶店へ入って行った。
滝沢くんっていうのね。また・・話出来るかしら。
美味しいケーキとお茶・・そして・・彼・・に会える喫茶店。
来週が待ち遠しい。なんて思いながら・・家に向かう私だった。


―fin―


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