[back]

Kissの奇蹟 第3章
a miracle kiss
2003年7月
しいな 作


 「で?そのあと・・どうしたのっ。」
キラキラした瞳で友人が聞いてくる。
彼女は・・私が発した言葉に首を傾げてもういちど聞き返して来た。
「え?どうなったって?」
どうやら・・期待はずれの答えだったみたい。
私、響さくらの高校時代からの友人の彼女は・・開いた口が塞がらないといった感じだ。
「なんで・・そうなるのよう〜・・せっかくの滝沢くんからの告白なのにぃ。」
自分の事じゃないのに何でそんなに残念そうにするんだろう。

私たちは、大学の構内にあるカフェでお茶をしている。
2年休学している私は、ガンバって単位取得中。
彼女は就職活動中だ。
「だって・・何て言っていいのか・・分からなかったんだもん。」
私は、大好きなベイクドチーズケーキを頬張りながらそう答える。
彼女の名前は、鈴谷まりあ。
可愛くてお人形みたいで一見お嬢様風なんだけど・・性格は180度違う。
「まぁだ・・忘れられないのう?あんなステキな男の子が側にいるってのに。」
彼女は、アイスティーをじゅるじゅるとストローで飲んでる。
「そう・・カンタンには行かないもん。」
「行かないけどさぁ・・だって・・もういいじゃない・・忘れたってさ。あいつも許してくれるってば。」
諭すように言われる。

そう言えば・・いつの間にかサクラの中で微笑む姿は・・私を残して逝ってしまった あいつじゃなくて滝沢くんの姿の方がリアルになって来てる。
そう・・あいつは、もう戻って来ない。
分かっているつもりなんだけど・・あと一歩踏み出せない私。
「しかし・・滝沢くんも良くもまぁ・・会って1年半くらい? 良く・・我慢したと思うよ。答えてやんなよ。分かってるんでしょ?」
彼女は、出会って間もない頃の滝沢くんと会っている。
「まっすぐな瞳で見つめられちゃって・・答えちゃったんだよね。あのころから好きだったんだね〜・・きっと。」
後で彼が芸能人の滝沢秀明くんだって気づいたって言ってたっけ。
そう言えば、まりあとも話せるようになったのも滝沢くんのお陰だったな。
端正な顔を思い浮かべる。
普通の男の子よりも肌が白くて・・髪型と色に合ってたなぁ。
アッシュ系っていうのかな・・洋楽のアーティストにあーいう髪型っぽいひと いたよね・・何て言ったかなぁ。
「滝沢くんの事考えてたでしょ?」
と図星とつかれてドキドキ☆
「今度あったらちゃんと好きって言いなさいよ。私はそこまで世話できませんわ よ。」
そんなこと言われても・・。
私は、咽せてゴホゴホとせき込んだ。
「彼・・忙しいから暫く会えないもの。ちょっと・・当分無理かな。」
ちょっと私は逃げ腰。
というか・・答えなかった手前・・会いづらいんだけど。
「ああ・・コンサート中だっけ?会いにいきなよ〜自分から。嬉しくて ちゃんと時間作ってくれるよ。会いたくないの?」
私は、顔が熱くなってくる。
会いたい・・滝沢くんの顔を思い出す度・・胸が締め付けられる。
分かってる・・いつも気づかないフリをしていただけ・・。
滝沢くんの言うとおりだった。
「でもぉ・・やっぱり・・もう少し落ちついてからにする。迷惑掛けたくないか ら。」
「そ・・まぁ・・滝沢くんも1回振られたくらいじゃ諦めないでしょ。」
まりあは、最後の一口をズルズルと音を立てて飲み干した。

そのとき2人の男の子が私たちの席にやってきた。
2人とも顔見知りだ。
「まりあ〜!相変わらず・・その容姿に合わない事するやつだな。ズルズル音立てて飲むんじゃね〜よ。」
身長が180センチを超える大柄の彼は馬淵豊。
ラグビー部ですでに社会人チームに進む事になってるので就職内定が決定している。
もう一人は、清水要くん。
豊の大学からの友達で偶然サークルが一緒だった。
身長は、滝沢くんと変わらないかなぁ・・気さくで 話やすい人だ。
彼も大手の電気メーカーの就職が決まっている。
「ふんっ。この時期に内定貰ってる奴に言われたくないね〜だ。」
「ケンカ売ってんのかぁ。可愛くねぇ〜・・。」
嘘ばっかり・・豊がまりあのこと好きなの知ってる。
まりあも人の心配するより早く気づけばいいのにと思ったり。
私は、2人の痴話喧嘩にニコニコと微笑みながら見る。
「この2人仲良いのか悪いのかさっぱり分かんないな。」
清水くんは、首を傾げながら私に声を掛ける。
「そうですねぇ・・ケンカするほど仲が良いっていうから。」
私は、コーヒーをすする。
「そういやさ・・この間見せてくれた写真って上手く撮れてたよね。 姪っ子さんって言ってたよね?写真部入るきっかけってあれ取った人の影響?」
「そう。彼のおかげで興味が沸いてきて。私もあんな風に撮れるといいんだけど な。」

最後の一滴を飲み干して時計をみると講義の時間まで15分ほどだった。
まずいっ・・遅れちゃうっ。
「ごめん!私っ・・授業あるからこの辺で!」
そう言って荷物を持って3人に手を振って立ち去る。
結構・・走った。
大講堂に入ると同じクラスになった友達が座っていたので彼女と一緒に 授業を受けることになった。
携帯の着信音が鳴り出して私は慌てて音を切った。
気づくとメールが入って来てた。
『今日は、何時に帰ってくる?大事な話があるから早めに帰ってきて』
という義姉からのメールだった。
私は、なんだろ?と思いながら「了解しました!」と返信した。
まもなく教授が来て授業が始まった。



 今日は、ドラマの打ち合わせが早く終わったから友達に連絡を取った。
オレ・・滝沢秀明は、郊外にある喫茶店・・カフェに向かったはずなんだけど。
駐車場に止めて歩くと・・そこは・・大学・・キャンパス。
だだっ広い敷地。
慌てて友達に電話する。
「ここ・・大学じゃん!いい〜の?入っちゃって!」
オレは、歩きながら携帯片手に話し出す。
学生さんがチラホラと歩いてる。
オレなんかにゃ・・気にもとめない。(ちょっと・・ショックかも・・)
まぁ・・サングラスに・・ボロボロジャケにジーパンだもんな。
分かるわけないかぁ・・。(生活も意外と地味だし・・)

「部外者・・ダメなんじゃ?・・分かった・・。」
生徒以外が入って来ても大丈夫らしい。
いいのかな〜?と思いながらオレは、正々堂々と門から入る。
オレ浮いてないかな?と思いながらドキドキ歩く。
だけど、途中にバンドやってるっぽい人もいたりして・・みんな普通に素通り。
カフェってどこなんだ〜〜っ。
通りすがりの人に聞いたりして何とか潜り込んだけど。
オープンカフェっていうのかな・・オシャレかも。
大学に・・こんなとこあるんだなぁ。
確かに・・穴場だけど・・ホントに良いのかよ。
歩いて行くと・・まばらにお客さんがいるくらい。
繁盛してないのかな?・・だから・・マニアックとか!

ふと・・男2人、女1人が座っているテーブルが目に付く。
あっ・・!オレは、まっすぐにその人に向かって歩き出した。 良く見知っている人を見つけた。
「まりあさん!久しぶりっす!」
オレは、ピンクのスーツを来ている女性に声を掛ける。
小柄で可愛い人だけどちょっと・・毒舌の面白い人だ。
彼女・・さくらさんの親友だ。
さくらさんの死んだ恋人の事を見ず知らずのオレに話してくれた人だった。
「滝沢くんっ・・どうしてここに?久しぶりだねぇ〜。」
オレは、隣にいそうな人をキョロキョロと探してしまう。
「なんか・・穴場のカフェがあるからって来たら大学だったんだよね。」
ホントだからしょうがない。
「ああ・・確かに・・美味しいし安いからねぇ。でも、学生くらいしか知らないと。」
コロコロと笑う。
「ってことは・・さくらさんもここの大学なんだね。」
オレがそう言うと彼女はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「聞いたわよ〜・・大変だねぇ。」
「もう・・伝わってるんだ・・早まったかな。」
すると肩をポンポンと叩かれる。
「そんなことないでしょ。君・・良く我慢してるよ。いい加減現状打破しないと ね。」
打破?ってどういう意味だろう(難しい事わかんないや・・)

ふと・・2つの視線がオレに注がれている。
初めて見る男の人だった。
オレの人見知り光線が放たれる。
「なぁ・・まりあ・・誰?」
大柄のスポーツマンと言った男の人がオレの顔を睨みながら言った。
「はぁ!?ちょっと・・あんた!失礼じゃない!」
さらに・・大柄の男性は敵対心をオレに向けてるっぽい。
あれ?もしかして・・勘違いしてるかもしんない。
「まぁまぁ・・!まりあさんとさくらさんとは共通の友人なんです。」
と・・オレにしては精一杯のあいさつをする。
ことさら・・友人に力を込める。
すると・・もう一人の男性がオレを射抜くように見る。
「どっかで・・見たことあるよなぁ・・。」
オレは・・「さあ・・?」と首を傾げる。
「さっきまで・・さくらいたんだよ〜・・いま・・授業入っちゃった。」
そか・・残念。
会いたかったな〜・・でも顔を合わせるのが辛いかな。

「ヒデっ・・こっちっ!」
野太い男どもの声がする。
「じゃあ・・また!」
まりあさんに手を振って別れた。
この敷地内に彼女がいる。
そう思うだけでオレの心の中はさくらさんの画像がいくつも思い浮かぶ。
会いたい・・だけど、前みたいに普通に話せないかもだ。
もう・・見守るだけはイヤだ。
そんなことを思いながら友人のいる場所に向かうオレだった。




 義姉からのメールの10分ほど後に・・またしても携帯が震える。
何だろうと見ると・・先ほど別れた友人の鈴谷まりあだった。
読むと・・・
えっ・・?
私は、外の風景を見てしまう。
中庭の・・辺り・・見えるわけない。
滝沢くん・・来てるんだ。
そう聞いただけで・・胸がが震える。
一瞬で、滝沢くんの映像で頭の中がいっぱいになる。
どうしよう・・授業の・・教授の声が全然聞こえない。
散ってしまったサクラの木だけが見える。
コンサートの合間なのかな・・ドラマも打ち合わせしてるって言ってたな。
会いたいな・・そんな風に思えるのに何故だろう。

あの時・・どうして・・私も好きって言えなかったんだろう。
『もういいじゃない・・忘れたってさ。あいつも許してくれるってば・・』
まりあの言葉が頭に思い浮かんだ。
ほんとうにそうだろうか・・。
あいつは・・許してくれる?
私は、鞄から手帳を取り出す。
あるページを見ると懐かしい気持ちが沸いてくる。
昔・・彼と撮った写真だ。
滝沢くんにいつまでも忘れないカレの写真を見てるところを見られて 未練がましいでしょ?
おかしいよね・・ずっと手帳に入れてるなんて と言ったことがある。
彼は、「そんなことないよ・・。」優しく微笑みながら言ってくれた。
ふわっ・・と口角の上がる微笑みを思い出す。

外を眺めながらそんなことを思っていると・・。
「私の授業が聞けないのかな?」
大講堂の前の席に陣取っていたのが災いして心がトリップしていた私に40代の 低い声が聞こえた。
見ると・・近くまで来ていた教授が咳払いをする。
はっ・・マズイ〜・・・。
「す・・すみません・・。」
教授は、憮然とした表情でそのまま教壇まで戻って行った。
私は・・何となくそのまま授業を受ける気になれずに・・隣にいる友人に 謝って・・教授の痛い視線を感じながら教室を出ていった。

 私は、そのままカフェに向かった。
もう・・30分は・・経っている。
いるかな・・でも・・会ってなんて言おう。
息が切れるほど走って行く。
カフェは、さすがに人がまばらで見知った顔は居なかった。
やっぱり・・会えなかった。
トボトボと・・歩き出す。
校門を出て近くの駐車場を横切ろうとしたときだった。

「あれ・・?授業じゃなかったの?」
聞き覚えのある声の方向を見ると・・ずっと会いたい人だった。
普段TVで見る姿は、ツンツン髪を経たせているけどストレートに下ろした茶髪。
黄色いいつものサングラスに黒のノースリTシャツにボロボロのジーパン。
まったくの普段着の彼。
「あっ・・た・・滝沢くんっ・・まだ・・」
まだ・・帰ってなかったんだ・・≠ニいうのを思わず呑み込む。
「まだ・・何?」
ん?って感じで何気なく聞かれる。
「まりあから・・メール貰ってたから。もう帰ったのかなぁって思ってたの。」
躊躇しながらもそう答える。
「もしかして・・オレに会うのに授業サボっちゃったとか・・。」
図星指されて何も答えられずにジッと滝沢くんを見てしまう。
「マジ?」
こくんと素直に頷くと彼は満面の笑みを浮かべる。
いつもの口角の上がる柔らかい微笑み。
眩しい・・私は、心臓が早く脈打つのが分かる。

「どうしよう・・オレ・・すげぇ・・嬉しいんだけど。」
「教授には・・睨まれちゃったけど。」
落ちを付けると「ヤバイじゃん!大丈夫なの?」と心配される。
「じゃあ・・これから帰るの?送るよ。」
いつもの滝沢くん。
会えて嬉しい気持ちが勝ってさっきまで何て言おうってちょっと鬱な気分が 晴れた。
「うん・・保育所に寄って和ちゃんを迎えに行くんだけど・・ちょっと早いかな?」
腕時計を見ると・・1時間以上早い。
そうだよね・・30分授業パスしちゃったからな〜。
「ふうん・・オレもつき合って良い?夕方まで時間あるんだ。」
「もちろん・・和ちゃん喜ぶと思う。義姉さんには、またズルイ〜って言われるか な。」
・・というと「ふははっ」と笑う。
車の後部座席に座るとバックミラーで私を見る。
「あのさ・・和ちゃんを迎えに行くまでつき合ってくれるかな?」
キーを回してエンジンを掛ける。
サイドブレーキを外してドライブに入れてアクセルをゆっくりと踏み込んでいく。
「いいけど・・何?」
「オレんちなんだけど・・ちょっと見せたいものがあるんだ。」
滝沢くんの家・・初めて入るよね・・ちょっとの間。
「ふ〜ん・・何だろう。勿体ぶらないで教えてよ。」
「ナイショで〜す。見てからのお楽しみ。」
そう言って車はスピードを上げて走っていく。
初めて滝沢くんの家を訪れる。
つづく


[top]