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Kissの奇蹟 第1章
a miracle kiss
2003年7月
しいな 作


「さくらさんの事が好きなんだ。」
桜が舞い散る中・・彼の声が響いた。
私は、驚いて彼を見つめる。
穏やかな表情が私を見ていた。
心臓の脈打つ音が大きく聞こえる。
「こういうつきあいから卒業したいんだけど。」
近くのベンチに座って足を組んで私を見上げる。
金髪で襟足の長い髪型・・ウルフカットっていうのかな・・風になびいている。
夏には灼けていた肌も今では透き通るように白くて・・。
桜吹雪の中・・一枚の絵のようだった。
私は、何と答えて良いものか・・返答出来ずにいた。

去年の冬に初めて会って・・それから何回も会うようになって色々と
相談も出来る年下の男の子・・友人というつもりだった。
「卒業って・・滝沢くん・・私にCDの宣伝してもだめだよ。」
なんて・・ちょっとちゃかしてしまった。
1ヶ月くらい前に発売したシングルの題名をもじって言われたから・・つい・・。
だって・・どうしていいか分からなくなってしまったから。
「あのさ・・オレ・・真剣なんだ。分かってる?」
彼・・滝沢秀明くんは、真面目に真剣に私を再び見つめる。
私は、滝沢くんの隣に座ってどう答えて良いものか考える。
「ご・・ごめん・・急だったから・・。びっくりしちゃって・・」

彼・・滝沢秀明くんは、言わずと知れたタッキー&翼というユニットを組んでいる 人気アイドル。
本当は私なんかとは住む世界が違う人なんだけど・・あることがきっかけで
ひょんなことから顔見知りから友人になった。
私の名前は、響さくら。
その辺にどこにでもいる普通の大学生。
でも・・ちょっとワケありで2年留年している。
「急かぁ・・結構・・ずっと匂わせてたんだけどな・・気づかなかった?」
俯き加減の私の顔を覗き込む。
端正な顔が近づいている。
私は、ちょっと・・後ずさる。
だって・・心臓が破裂しそう・・顔が熱くて・・どうしようもなくて。。。
「違うよね・・気づかないフリしてた?」
「ごめん・・私・・そんな風に見れない・・」
立ち上がって歩き出そうとする。
「あの人の事が忘れられないんだ・・?」
滝沢くんの言葉から私の心の中に彼の残像が浮かび上がる。
だけど・・それも朧気で私は振り返って滝沢くんを見る。
「ごめん・・急ぎすぎちゃったかも。忘れてくれていいから。」
ちょっと残念そうなにが笑いを浮かべる。
どうしよう・・そんな顔をさせたいわけじゃないのに。

「きゃあ〜☆たっちぃ〜っ
パタパタと元気の良い足音と幼児独特の高い声が聞こえた。
お約束のように滝沢くんの右足に激突する物体。
もう少しで3才になる姪っ子は滝沢くんに軽々と抱えられる。
「和ちゃん・・元気だった?」
低めの甘いハスキーボイスで声を掛ける。
黒目がちなオニキスの瞳を彼女に向ける。
自然と笑顔で口元にエクボが出来てる。
「うんっ・・げんき〜っ・・ちゅ〜☆」
和ちゃんは、滝沢くんの頬に可愛くキスをする。
嬉しそうにそれを受ける彼。
無邪気な姪っ子に私も彼もその前の何ともいえない空気が氷のように溶けていった。
「こらっ!和っ・・私のタッキーに何するのっ!」
「や〜っ・・ママ嫌〜い・・たっちぃちゅき〜☆」
息を切らして走って来た義姉に姪っ子は悲しいくらい辛い仕打ちをする。
義姉は滝沢くんから和ちゃんを受け取る。
「和ちゃん・・ママの言うこと聞かなきゃだめだよ。」
と頭を撫でると途端にご機嫌になる姪っ子。
「ほんとにアンタってば現金だわね〜。いつもごめんね〜タッキー☆」
「いいえ・・それじゃあ・・オレはこれで・・。」
私の方をチラッと見て近くに止めてあった車に乗り込んで去っていった。

義姉は、滝沢くんをうっとりと見つめていた。
「相変わらず・・カッコイイっ・・キレイだわ〜〜っ。」
私の隣に並んで2人で歩き出す。
まったく・・ミーハーなんだから。
すっかり和ちゃんが影響受けてるんだもん。
「うちでお茶でも飲んでいけばいいのにね〜・・さくら?」
と急に声を掛けられて狼狽える。
「あ〜うん・・忙しいのよ・・コンサート中だもの・・。」
「ふ〜ん・・何か変だよねぇ・・タッキーと何かあった?」
和ちゃんを下ろして間に挟んで手をつなぐ。
「別に・・なにもないけど・・。」
「告白でもされた?」
ギクッ・・私は、義姉の顔を見つめる。
「嘘っ・・ホントに!?ちょっと・・どうすんの!?」
彼女は慌てたように私に迫ってくる。
「どうって・・別に・・変わらないと思うけど。」
「はあ!?」
義姉は、意味が分からないらしく聞き返してきた。
「好きだって言われたんでしょ?何て答えたの?」
「えっ・・どうしていいか分からなくて・・何も言えなかった。」
川沿いの桜並木を見ながら私たちは歩く。
「ちょっと・・もしかして・・まだ気にしてるの?」
義姉は、そう話しかけてくる。
「この話は・・おしまいっ・・早く家に帰ろう・・ね!和ちゃん。」
話を逸らすように私は姪っ子にそう声を掛ける。
彼女は首を傾げて私たちを見上げていた。
つづく


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