気になるあいつ 後編 True Heart |
2002年11月 しいな 作 |
ほっておけない性格なのか・・可愛い部下のためなのか・・。 会社をきっちり定時に終わらせ一度家に帰って着替える。 いつものジーパンに長袖シャツ。 ジャケットを羽織ってスーパーで買い物を済ます。 「・・今から行くから宜しくね。」 彼の携帯に電話すると、「了解!」ブチッとすぐ切られる。 ちょっとぉ・・せっかく買い物までして行くのにそれだけ? ムカツキながら朝行ったマンションを訪れる。 今度はスンナリ建物の中に入れて彼の部屋の前に来る。 インターホンを押すとドアが開く。 「 お帰りなさい〜。どうぞ!」 私は、滝沢くんの顔を見て吹き出しそうになる。 額に冷えピタが貼ってある。 「何笑ってんすか?」 いや・・可愛くてつい・・。というのを飲み込む。 「あはは・・ごめん。病院は行ったの?」 「行きましたよ。 ケツに注射打たれました。」 ちょっと俯いてそうお尻をさすってる。 さすがに風邪のせいか朝見た裸じゃなくてTシャツにジャージだった。 「そんなことより・・何鍋ですか?楽しみだな〜。」 そう言ってソファに座る彼。 「いつ・・鍋って決めたの?病人は病人食に決まってるじゃないの。」 私は、意地悪く彼を見てそう言った。 「ええっ!キムチ鍋とか水炊きとかじゃないんですか?」 「当たり前でしょ。病人食といえばお粥でしょうが。」 私は、きっと男の一人暮らし・・お米も炊いてないだろうと 家から持って来たご飯とスーパーで買った梅干しや鮭などトッピングを用意する。 要は・・簡単で葉もの野菜を入れて塩で味付けするだけ。 鮭や梅干しを入れて食べるという簡単なモノだった。 彼は、ちょっとレンゲですくったおかゆの匂いを嗅いだ後一口食べる。 「 ふっ・・んまい・・。」 目を閉じて鼻を膨らましてそうつぶやいた。 「でしょう?いっぱい食べて早く寝ないとね。」 そんな姿を見て笑ってしまう。 私は、「ハフハフ・・」と食べる彼を余所に・・広い居間を見渡してした。 そして、ある疑問を思い出した。 「思ったんだけど、すいぶん・・良い所に住んでるじゃない?うちの初任給って そんなに良かったっけ?」 最初に部屋に入った時の疑問を彼にぶつける。 彼は「えっ?」と私に聞き返す。 「だって・・私の部屋と大して変わらないんだもの・・。」 すると、彼は「恥ずかしい話なんですけど・・。」と切り出した。 最初は、彼も独身寮に入居したらしいのだ。 「あそこって・・女の子も一緒なんですよ?分かれてはいますけど。」 もちろんそうでしょう。一緒だったらまずいの? 寮っていってもちゃんとしたマンションだもの。 「で?それがどうかしたの?確か・・ここの住所もデータにないよね?」 「オレの部屋に・・出入りするんですよ・・っていうか押し掛けて来るんです。」 言いずらそうに私に向かって言う。 「合い鍵とかも作られちゃって・・騒ぎになったんですよ。知りませんでした?」 し・・知らなかった。私が無知だったんだろうか。 「で・・男の先輩には色々誤解されちゃって・・居れなくなったんです。」 「このマンションは?会社から借りてるの?」 そんなこと・・出来るのかしら? 「いえ・・あの・・室長の私物らしくて困ってたら使っていいって・・。」 あら・・。だから、住所知ってたんだ。 とういうか部下だから当たり前なんだけど。 「なるほど・・。仕方ないね・・君ってモテるから。」 私がそう言うと彼は「いや・・別に嬉しくないっすよ。」と残りのお粥を食べてる。 「またまた〜〜。彼女くらいいるんでしょう?今度紹介しなよ〜。」 私がからかうように言うと真剣に私を見つめる。 「いないですよ。そんな子・・。」 その後、ちょっと怒ってる風に見える。 私の気のせいかな。 なんか・・機嫌がさっきと違うみたいなんだけど。 「さて・・ぼちぼち帰ろうかな。そうそう・・Dンボってどこ?」 私は、話を逸らして帰り支度をする。 「 もう・・帰るんですか?ゆっくりしていけばいいのに。」 食べ終わった彼が私にそう言った。 「ゆっくりって病人相手にいつまでも居座るわけにはいかないでしょう?」 Dキャラコレクションの中には無いわね・・うちのDンボちゃんどこ? 「オレは、ぜんぜん・・平気なんですけど。」 キッチンに洗い物を持っていく彼。 「平気じゃないでしょう?明日は、無理して出てこなくていいからね。 ねぇ・・うちのDンボは?」 当初の目的(?)なんだから忘れずに持って帰らないと。 洗い物を終えた彼が居間を通り抜けて寝室に入って行った。 「はい。恥ずかしいだろうから。袋にいれましたよ。」 と大きめのトートバックに突っ込んである。 「サンキュー。じゃっ・・帰るね。お大事に。」 私は玄関に向かって歩く。 「あの・・オレも聞いて良いですか?」 靴を履きながら「何?」と聞き返す。 「 主任は・・付き合ってる人とかいるんですか?」 「は?何でそんなこと聞くの?」 ちょっと面食らって聞き返す。 「いや・・気になったんで・・。」 ”素朴な疑問です。”と両腕をさすりながら言った。 「疑問って・・こんな夜に後輩のご飯作りに来てたら分かるでしょ?失礼な奴だね・・君って。」 「すみません・・。へぇ・・じゃあ・・お互いフリーですね。」 にこにこと笑みを浮かべてる。 コロコロと表情が変わる子だよね。 犬みたい。 「だから、何?まさか・・フリー同士付き合っちゃおうか?な〜んて 冗談言わないよね?」 って笑ってそう言うと。 じっと吸い込まれそうな瞳が私を見てる。 何だか彼が今さっきまでとは雰囲気が変わったような気がする。 やんちゃな男の子って感じだったのに・・何だか男の艶めかしさが漂ってるような。 急に私の心臓が高鳴る。 すると・・滝沢くんが掛けている私のメガネに手を伸ばす。 外されて顔が近づいてくる・・それは、スローモーション。 私は、思わず手で彼の体を突き放す。 「そういう・・冗談やめてよねっ。」 彼は、よろめいて倒れそうになってる。 その隙にマンションから逃亡する・・Dキャラを小脇に抱えながら。 おぼろげな視界に不安を覚えつつ早足で帰る。 し・・信じられないっ・・いきなりっ。 明日・・明後日から会ってどんな顔すればいいのよ・・。 慌てて逃げ出して来たものの・・倒れそうになってたな・・大丈夫だろうか。 ってもう心配してるし・・。 すると・・携帯の着信がなる。 見ると・・滝沢くんだった。 「はい・・。」 私が出るとちょっと沈黙。 『 からかってるとか・・冗談とかじゃないから。』 私は、黙って聞いている。 『それと・・メガネとDンボ取りに来てくださいね。』 「えっ・・メガネは分かるけど・・ちょっと。。。」 そのまま・・携帯は切れた・・。 ぬいぐるみ・・持ってるよね。 私は、疑問に思いながら家に帰り・・Dンボを見る。 あれ・・?うちの子じゃない・・大きさが違う。 や・・やられた・・。 私は彼の携帯に電話する。 数回のコールで彼が出る。 「ちょっとぉ・・騙したね。」 私がそう言うと「ふははっ」と笑ってる。 『返事はいつでも良いんで・・また来て下さいよ。』 そう・・心地よい低めのハスキーボイスが響く。 『 待ってますから。』 そう言って彼は携帯を切った。 いつでも良いって・・職場でいつも一緒なのに・・困るじゃないの。 それから・・彼は、思っていたよりも風邪が重かったらしく、2日間出社してこなかった。 やっぱり・・ほっておけなくて・・心配性な私は・・彼のマンションを 再び訪問したのだった。 |